かつては複数教室で1,000人の塾生を抱え、本校だけでも300人が在籍していた地方の優良塾。それが今では瀕死の状態に…。窮地に陥った経営者は旧知の塾に支援を要請し、営業権を譲渡。ただし、職員は継続雇用が条件。譲渡されたオーナーは教室の建て直しのため、業界一の建て直し屋に研修を依頼。その建て直し屋こそ、森智勝その人であった!
な~んて経緯で、とある老舗塾の研修に入りました。対象スタッフは9名。塾長(元のオーナー)と奥様(事務)、教科担当者が5名、高校部担当者が1名、新しいオーナー塾から派遣された職員が1名です。
初日でしたので、まずはビジネスの基本、塾の基本をお話しました。(このメール・セミナー上で何度も主張していることです)
そうした話の中で、「あなたの仕事は何ですか?」という質問をしました。すると、次のような回答が返ってきました。
「私は中学部の社会を指導しています」
「私は高校部の担当です」
「私は数学を…」
これらの答えは全て間違いです。なぜならココで挙げられた項目は全て、仕事ではなく「業務」だからです。
これは多くの塾人が陥っている錯覚です。以前も言いましたが、数学を教えることを仕事にしたければ、塾の教師ではなく学校の教師になるべきです。学校の教師ならば、数学を教えることを仕事だと言えます。彼らは都会の学校で40人を前に数学を教えても、離島の分校で3人を前に数学を教えても、給与に違いはありません。「数学を教える」という仕事は一緒なのですから、給与も一緒なのは道理です。
しかし塾の場合、40人が3人になれば…給与云々の前に、塾そのものが倒産します。そんな当たり前の理屈にさえ気付かないから、生徒が激減しても何の危機感もなく、淡々と業務に勤しんでいる。
仕事とは、理科で習うように「何かに対してエネルギーを加え、対象物を動かしたり変化させたりすること」です。ココで言う対象物とは塾の場合、生徒であり、保護者であり、地域です。あなたの学習指導は、地域を動かしてこそ「仕事」と言えます。つまるところ塾教師は、学問を教えるという業務を通して塾生を増やす仕事をしているのです。
念のために言いますが、例えば「生徒の未来に貢献する」とか「学校生活の不安を取り除く」とか「生徒のモチベーションを上げる」とか…これらは、やっぱり仕事ではありません。塾生を増やし、売上を増やすために必要な要素ではありますが、それを仕事と認識するのは間違いです。
この塾では、過去一度も模擬授業をしたことがないと言います。互いが互いの業務には口を挟まない風土が作られています。それはいわゆるタコツボ化そのものです。誰もが周りに遠慮して、自分の業務だけに没頭します。こうした組織(塾)は確実に生徒不在、保護者不在の状態になります。客を無視して成立するビジネスは存在しません。
私は、この塾が特別だとは思いません。多くの中小塾が陥っているありふれた状態です。「あなたの塾」は大丈夫だとは思うのですが、常に点検してください。あなたの思いとは裏腹に、タコツボに入っている職員がいるかもしれません。
ただ、この塾にも希望の光はあります。今まで、こうした指摘を受けて来なかっただけで、もともとの資質(ポテンシャル)は優れたものがあります。研修後のレポートを読みましたが、それぞれが認識を新たにし、前向きに研修に臨む姿勢を見せています。私、けっこう厳しめに檄を飛ばしたのですが、それすら新鮮に受け取ってもらえたようです。その姿勢さえ保ってくれれば、塾の改革は必ず成就します。
さて、あなたの仕事は何ですか?