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塾V字回復の実例

私(森)はコンサルタントではありません。塾と顧問契約して経営に参画することはありません。ただ、実践情報を収集・提供するために、いくつかの会員塾に「モニター塾」になってもらい、月に1回の訪問をしています。「モニター塾」の条件は2つです。

  1. 経営不振で悩んでいる塾
  2. 実践内容を実名で公開することを了承する塾

現在好調に推移している塾の実践内容を公開するよりも、不振に悩み、そこから立ち上がるために奮闘する姿、実践する数々の手法を紹介する方が、塾経営者にとってリアルに受け止めてもらえると思っています。そうしたモニター塾の中から、いくつかの塾をドキュメント風に紹介します。まずは「集団指導塾の場合」です。

集団指導塾の場合

塾名 高志塾
塾長 坪木先生
所在地 新潟県妙高市
スタッフ 坪木塾長(理系担当)
高橋先生(文系担当)
優子事務長(坪木先生の奥様)
塾生数 四十数名(2012年10月現在)

新潟の豪雪地帯である妙高市にある高志塾は、小中学生を対象とする典型的な「集団指導補習塾」でした。カリキュラムは基本、週2回(英語100分/数学100分:中学生の場合)の、いわゆる英数塾です。授業料は月額16,000円(税別:中学生の場合)です。

1.商品力(授業)の立て直し

2012年秋、立て直しの依頼を受けて現地に赴き、最初のミーティングで坪木先生から発せられた質問は、「社員の高橋を辞めさすべきかどうか」でした。理由は、「人件費が重く、満足に自分の報酬が取れないこと」「高橋先生の授業に対するクレームが頻発していること」でした。確かに、40名そこそこの塾生数ならば、塾長1人でも指導は可能です。苦手な科目でも、塾長が自ら勉強しながら対応すれば何とか授業は成立するでしょう。(そんなに高額ではありませんが)一人分の人件費を削減することができれば、経営的にも一息つけます。

しかし私は、高志塾の経営不振の原因、根源的な原因は別にあると感じました。クレームがあると言いながら、高橋先生の授業に対する指示を出したり、改善を促す行動をとった形跡がなかったのです。いわゆる「丸投げ状態」です。つまり、塾長(経営者)である坪木先生自身がその職務を果たしていない…そこが問題だと考えました。そこでまず、授業内容を見せてもらうことにしました。私の前で、高橋・坪木両先生に模擬授業を披露してもらったのです。私の判定は…坪木先生は可も無し不可もなし、高橋先生は不可(落第点)でした。事前に拝見したホームページには「…いわゆる英語のカリスマ教師」と紹介していた高橋先生の授業は、(いくら突然の要請だったとは言え)お世辞でも及第点が付けられる代物ではありませんでした。

「これは辞めさせた方がいいかな?」と思っていた時、ちょうど塾長に来客があり、高橋先生と二人で話す機会がありました。そこで私は、塾の役割や使命、子どもたちに与える影響等について語りました。決して非難めいた言葉は発していなかったのですが、気付けば私の話を聞きながら高橋先生はポロポロと涙をこぼしていました。その涙を見た時、「もしかしたら何とかなるもしれない」と私は直感しました。少なくとも、感受性が豊かなことは塾教師として大切な要素です。指導テクニックは学べば上達しますが、マインドの分野は資質の問題です。高橋先生は、上手く指導できないことを自覚し、何とか改善したいと思いながらもできないでいる。そんな悔しさから泣いてしまったのだろうと想像しました。責任の大部分は、何の手も打ってこなかった塾長にあります。

そこで私は、坪木塾長に2つの提案をしました。

  1. 高橋先生の処遇は次春まで保留する
  2. 毎週3人(事務長を含む)で模擬授業研修を週に1回は実施し、月に1回の私の訪問時に披露する

まずは授業という塾にとっての商品のクオリティを高めなければ、塾の再建は始まりません。それを指摘し、生徒が感動する授業の構築を目指しました。この取り組みは今(2015年秋)も続いています。

2.カリキュラムの立て直し

前述のように、高志塾は典型的な英数塾でした。(中学3年生の秋からは受験指導が加わります)

ところが新潟県の高校入試(公立)では、中学1年生の内申点から査定評価に加えられています。当然、他の科目も英語・数学と同じ割合で評価されます。そこで私は、1年生からの5科目指導を提案しました。

具体的には、全体の指導時間はそのままに、英語と国語で100分、数学と理科で100分、社会は別日オプションでプリント学習(吉備メビウス採用)としました。英語と数学に関しては、それまでの指導時間が半減するわけですから、当然、中身の濃いスピィーディな授業が求められます。そこで指導時間内での演習を減らし、講義中心の授業に変更しました。

2013年新年度から上記のカリキュラムに変更し、徹底的に成績向上にこだわる塾を標榜することとしたのです。それまで実施していなかった毎授業のチェックテストも作成・実施を始めました。加えて中3は、一般クラスと選抜クラスに分けることにしました。選抜クラスは、地域トップ校である高田高校・高田北城高校を目指すクラスです。もちろん、人数的には1クラスでも充分なのですが、あえて2クラスにしました。トップ校への合格実績を作るためです。(生徒の自覚・モチベーションを刺激するため)

こうしたカリキュラムの変更によって明確に、「成績向上」と「志望校合格」を請け負う塾へと改革を進めていきました。塾のコンセプト(方向性)を明確にしたのです。そのため、例えばテスト対策も強化しました。

  1. テスト2週間前からテスト対策タームに突入
  2. 土日は12時間教室を開放(12時間特訓)
  3. テスト当日は午前6時からの早朝特訓(朝食付き)

塾生および保護者を対象とした新年度説明会(2月)で説明し、新生高志塾に対する理解を求めました。ある程度の抵抗と退塾者の発生は覚悟の上だったのですが、坪木先生の熱意が伝わったのか、退塾者(新年度非継続生)は2名と、例年並みで推移しました。

こうしたカリキュラム改革の中で1つ、重要な変更を実施しました。それは、年間の通常授業実施を43週にしたことです。多くの塾が月4回、年間48週稼働になっています。これではテスト対策や三者面談、イベント等に使える日数が足りません。また、社員に必要な休日を提供するのも難しくなります。48週と43週では30日間の違いが生じます。この30日を利用して様々なイベントを実施します。

-改革の成果/2013年1学期-

新潟県妙高市の中学校は3学期生ですが、学期に1回しか試験がありません。改革をスタートさせて最初の試験は6月末にやってきました。私は「圧倒的な成果を出してください」と指示をしながらも、祈る思いで結果を待ちました。教師たちにとっても、塾生たちにとっても辛い作業を課したのですから、成果として表れてほしい。人は努力の成果が目に見えないと(その事例の方が多いのですが…)心が折れてしまうものです。ところが…

高志塾の生徒たちは素晴らしい結果を叩き出してくれました。

特に、中3生の平均432点は衝撃でした。いくら難易度が低い1学期とはいえ、おいそれと実現できる数字ではありません。本当に素晴らしい成果です。特に、坪木先生の奮闘ぶりは凄かったらしく、高橋先生曰く「怖いくらいでした」とのこと。そうした坪木先生の熱意が塾全体に広がり、相乗効果がいかんなく発揮されたのでしょう。念のために付言しますが、高志塾は今も昔も「入塾テスト」などは存在せず、上記の2013年1学期テスト結果も、それまで在籍していた普通の生徒たちが中心となって叩き出したのです。

3.利益構造の立て直し

通常授業料&教材費

高志塾の授業料は、週2回(計200分)で16,000円でした。それを、時間を変えずに4科目指導に改編した2013年から19,000円に値上げしました。加えてオプションの「社会+苦手科目」が3,000円。合わせて6,000円、実に40%近い値上げです。最初は躊躇(ためら)っていた坪木塾長でしたが、ここだけは押し切りました。

多くの塾経営者が「値上げ」には消極的です。「値上げして退塾されたら…」という不安は理解できます。しかし、価格は提供する商品のクオリティで決まります。クオリティを上げても価格を上げないのでは経営体質は強化されません。また、それまでの実績があれば、(とりあえず)付き合ってくれる顧客はいるものです。高志塾の場合も、「そこまで坪木先生が熱心に言うのなら…」と、大半の生徒(家庭)が辞めずに新年度を迎えてくれました。また、8割以上の生徒がオプションコースを受講してくれました。あとはその信頼に応えるだけです。そして見事に成績向上という成果で応えたのです。以後、授業料に対する不満(クレーム)は全く聞こえてきません。

教材費も、それまでは実費程度の設定でした。しかし、例えば小売業界で仕入れ値で販売している店は皆無でしょう。また、市販のワークだけではなく、塾独自に作成したプリント・チェックテスト等もあります。そこには作成費(主に人件費)が発生しています。

現在の高志塾は教材費(年間費用)として48,000円(中3は52,000円)をいただいています。もちろん、それに見合うだけの教材を提供していますので、クレームはありません。

夏期講習

さて、次に改革したのが夏期講習をはじめとする特別講習です。それまでの高志塾は、夏期講習・冬期講習を必修とし、8月と1月の授業料を通常月の1.5倍にしていました。しかしこの制度だと、たいした売上にはなりません。前年(2012年)の夏期講習売上はたったの27万円。あまりにも少なく、これでは賞与はもちろん、戦略的経費も賄えません。

そこで2013年から講習内容を大改革しました。

まず、受講自体を任意としました。必修にしていると、高額な講習は設定できません。そして、中3は5万円、中2・中1は3万円の講習費設定にしました。内容も既製の夏期ワークを使用せずに、入試並みの総合問題を徹底的に講義するものとしました。別枠で個別対応の「弱点対策講座」も実施と、妙高高原での合宿(一泊二日)も企画しました。

一日のスケジュールは次の通りです。

午前 弱点対策講座or小学生講座
午後 中学生総合講座
夜間 通常授業

高橋先生は労基法があるため、午後からの出社だったのですが、自発的に午前9時から教室にやってきて、総合講座と通常授業の予習をしていました。坪木塾長は午前から講座を受け持っていたため、早朝5時に起きて予習をしていました…過酷な1か月だったと思います。しかしその見返りは、240万円という夏期講習の売上です。任意受講にしたことで受講率を心配していましたが、ふたを開けてみれば95%の受講率でした。直前の1学期末テストで、圧倒的な成績向上を達成したのが効いています。直後の三者面談は、誰もがニコニコ顔だったようです。結果が伴うと分かれば、誰もが喜んで(今までと比べれば)高額な講習も買ってくれるのです。

ちなみに、翌2014年度の夏期講習売上は360万円まで伸びました。

その他

受験対策講座の内容と価格を見直し、テスト前講座も外部に対して1万円で販売することにしました。毎回、チラシ1回分の費用が賄えるくらいの申し込みはあります。

こうした利益構造の改革の結果、2014年は2012年の2倍以上の売上を達成しました。あなたには説明不要でしょうが、売上が2倍以上ということは利益は…言うまでもないことですね。

4.マーケティング&コミュニケーション戦略の見直し

それまでの高志塾は、マーケティング&コミュニケーションに関しては何の手も打っていなかったというのが正直なところです。そこに大きくメスを入れました。

まず、チラシ・ホームページ・入塾案内を一新しました。チラシに関しては戦略的に回数と内容を考え、私が作成することにしました。チラシの投入回数は次の通りです。

時期 テーマ 投入回数
1月~4月 新年度募集 8回
5月 テスト対策 1回
6月~7月 夏期講習 2回
9月 学力グランプリ 1回
10月 テスト対策 1回
11月~12月 冬期講習 2回

以上、年間15回を基本としています。以前でしたら、とても中小・個人塾では実行できないチラシの投入回数です。現在は、ネット業者を利用すればB4版フルカラー両面でも、1枚2.7円程度で作成が可能です。

「チラシの反応率が悪く、チラシの折り込みを辞めてしまった」という塾があります。しかし、チラシを辞めて生徒が増える道理はありません。チラシは募集ツールであると同時に、地域への啓蒙ツールでもあります。認知度を常に上げる方策を採り続けなければ、ジリ貧になってしまいます。

ホームページも文字情報だけではなく、映像や画像、イラストを駆使して充実させました。適当だった入塾案内も、内容を濃く、量も豊富にしました。

この、「チラシ」「ホームページ」「入塾案内」は集客の3点セットです。ここを手抜きしている塾は、常に新規顧客に苦労することになります。

奥様である事務長にも追加仕事を指示しました。毎月、ご家庭に送付する明細書には一言コメントを書くようにし、誕生日に届くようにバースデイカードの作成もしています。ニュースレターを毎月発行して明細書に同封するようにしました。

イベントも充実させました。

保護者セミナー、年間締め括りのアワード、バーベキュー、クリスマス…勉強関連だけではなく、楽しいイベントも様々工夫しています。前述した年間43週稼働が、それを可能にしています。

コミュニケーションに関しては、坪木塾長が最も苦手とする分野でした。

こんなことがありました。

私と坪木塾長が外出しようとした時、一台の車に乗った「客」がやってきました。簡単な挨拶だけをして通り過ぎようとしていたので、塾長に「どなた?」と尋ねると保護者だと言います。その瞬間、私は塾長の背中を蹴って、「何でもいいから話をして来い!」と押しやりました。保護者とのコミュニケーションができない塾は絶対に流行りません。

現在の高志塾は、坪木塾長が担当するクラスを10分早く終了するように時間割を組んでいます。生徒と一緒に教室を出て、迎えに来ている保護者と会話する機会を持つためです。それまでの高志塾は、授業後に教師が外まで見送りに出ることをしていませんでした。雪国なので、ほとんどの生徒が保護者の送り迎えにも関わらずです。どうも、保護者対応が苦手なようでした。それを徹底的に改めさせました。

今ではすっかり、保護者と仲良しになっています。2014年は悪乗りして、「坪木先生の誕生日を祝う会」を開催しました。私も参加したのですが、驚いたことに20名以上の保護者が参加していました。(酒会なので保護者限定)

最初は、生徒との距離感も測りかねている様子がアリアリでした。今では、あいさつ代わりにハイタッチして生徒を迎え、ハイタッチして送り出すようになっています。

5.総括

まだまだ書き切れない多くの改革の結果、高志塾は2倍超の売上を達成する塾になりました。ただし、塾生は20人程度しか増えていません。これには理由があります。

改革に着手する時、「成績を上げて志望校に合格させる塾」を目指そうと決めました。そのことによって、辞めていく生徒が生じるのは覚悟しようと。それを恐れていては改革はできない…。

予想通り、多くの生徒が塾を去っていきました。改革当初、8名の小学6年生が在籍していました。現在(2015年度)の中学3年生です。当時から残っているのは8名中1人です。7名は退塾していきました。多くの生徒が去り、それ以上の生徒が入塾してきての「今」です。かつてと比べて生徒全体のレベルは圧倒的に高くなりました。合格実績も、過去最高を2年連続更新しています。

短期間で改革を進めた後遺症か、「高志塾は成績上位者でなければ入れない」「メチャクチャ勉強させられる」「坪木塾長が熱すぎる」等々の評判が地域に拡がっているようです。実態とはかけ離れた評判なのですが、改革の副作用として甘受しながら次の展開を考えているところです。

6.特別編 塾舎新築移転

それは2014年1月のことでした。坪木先生から緊急のTELが入ったのです。

「駅前通りのショッピングモールに出店していた○○塾が退去するらしい。あとに高志塾が入らないかという話が来ているのだけれど、どう思います?」

坪木先生の要請を受け、私は急遽現場に駆け付けました。全国規模のFCである○○塾が退去したばかりの物件を内覧するためです。条件としては家賃が月額30万円、最初の年は10万円の補助金が市から出るとのこと。内装費にも補助金が出るという好条件です。駅前通りといっても田舎の商店街です。たいして賑わっているわけではないのですが、それでも現在の教室からすれば立派な器です。ただし、家賃は現在の倍になります。

内覧を終え、教室で「移転した場合の間取り」等を相談していた休憩中、私は外の空気を吸いに散歩に出掛けました。通り沿いを100mも歩いていると、「売地」という看板が立っている空き地がありました。118坪の土地です。看板に書かれてあった不動産屋に問い合わせてみると、1,000万円だと言います。名古屋に住んでいる私にとって驚愕の安さでした。

教室に戻り、坪木塾長と優子事務長に尋ねました。「ぶっちゃけ、今、貯金はどれだけある?」

すると回答は…700万円あると言います。正直、驚きました。一年半前、生活費も取れないと嘆いていた坪木夫妻に、それだけの蓄えがあるとは思ってもいなかったからです。これには奥様の裕子事務長の差配が大きい。実は私が支援に入った時、優子事務長に念を押していたことがあります。

「私が支援に入った以上、必ず売上は増えます。しかし、絶対に生活レベルは上げないでください。必ず大きな勝負をする時が近々来ます。その時のために貯金しておいてください」と。

私も男ですから分かります。男は増えた売上を後先考えずに使ってしまうものです。そうさせないように、奥様である優子事務長に釘を刺しておいたのです。何と優子事務長は、私の言葉を愚直に守り続けてくれていました。正直、ちょっと感動しました。

私は1つの選択肢を提案しました。

「その700万円に、親兄弟親戚に頭を下げて300万円を借り入れ、1,000万円で土地を買いませんか。その土地を担保にして信金から融資を受け、上物を建てれば自前の塾舎が手に入ります」

その時、私の計算では2,000万円もあれば立派な校舎が建設できるという見込みでした。2,000万円の借入ならば、月々30万円の返済で67か月、5年と半年で返済が可能です。30万円の家賃を払い続けるくらいならば、資産として不動産を取得しておくのもいいのではないかと考えたのです。

そこからの坪木先生の決断と行動は早かった。

118坪では狭い(雪国ならではの特徴で、絶対的に広い駐車場が必要)ということで、あらためて165坪の土地を近隣に探し当て購入。(これも雪国特有の事情で私の予想をはるかに超える)建築費の融資を取り付け、新校舎の建築に邁進し始めました。

そして2015年7月に完成したのが以下に紹介する新校舎です。多分、市内で最も豪華で充実した設備の塾舎です。もちろん、多額の借入金を抱えることになりましたが、坪木先生は人生を賭けて決断しました。

「塾の評価は外見ではない、中身で勝負だ」という声は、ビジネスの世界では通用しません。外見も含めてビジネスです。正直、以前の古い倉庫のような塾舎では目標に掲げていた塾生100名の達成は難しいと考えていました。

しかし、素晴らしい器が完成しました。あとは中身(ソフト)を充実させるだけです。高志塾の改革第2章は始まったばかりです。

 
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