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塾・新時代のマーケティング論(88)
高倉健に見る家康型リーダーの姿

森智勝氏

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 さあ、夏期講習が目前に迫ってきました。先月号でもお伝えした「本気の講習」を実施してください。

 前々回、「リーダーになる決意」についてお話しました。その続編です。読者から「信長型、秀吉型のリーダーは分かるが、家康型のリーダーがイマイチ理解できない」という声が届きました。いわゆる「ストイックなリーダー像」が実感として分からないというのです。そこで、家康型リーダー像の具体例を挙げたいと思います…高倉健です。

 高倉健は家康型のリーダーです。そこに貫かれているのは、凡人では真似のできない強烈なストイック魂です。そして、自ら決めたルール(仕組み)を絶対に破りません。

 高倉健を知らない人はいないと思います。言わずと知れた映画界の大スターです。これだけ長く俳優生活を続けていて、テレビドラマへの出演はたったの5本です。バライティ番組やCMも、よっぽど気に入った仕事しか請けません。頑なに「映画スター高倉健」を貫いています。寅さんシリーズが始まってから、一切の他映画(友情出演は除く)、テレビ、CM等の出演を辞めてしまった渥美清と同じスタンスです。高倉健ほどの知名度と実力があれば、(俗な言い方ですが)もっと稼げる生き方があるはずです。しかし、高倉健はそれを「よし」とはしませんでした。

 彼のストイックさは、撮影現場でも発揮されます。有名な話ですが、彼は休憩中、絶対に椅子に座りません。他の役者、スタッフが仕事をしているのに自分だけが休憩するのは申し訳ないというのが、その理由です。もちろん、周りの人に同じことを強要することは全くないのですが、「健さんが座らないのに…」と、他の役者も座ることはありません。

 まあ、周囲からすると迷惑な話かもしれませんが、だからこそ、高倉健の出演する映画はクオリティが高くなります。現場がそれだけの緊張感を持って取り組むのです。「いい映画」にならないはずがありません。高倉健と競演する役者は、「絶対に迷惑を掛けられない」と入念な準備をして撮影に臨みます。当然、NGも少なくクオリティの高い芝居になります。

 高倉健の人柄を表すこんな有名なエピソードがあります。

 真冬の福井での撮影初日、高倉健は休みの日だったが、ロケ現場へ激励に現れた。厳冬下だったので、出演者・スタッフは焚火にあたっていたが、高倉は焚火にあたろうとしない。スタッフが「どうぞ焚火へ」と勧めたところ、高倉は「自分はオフで勝手に来た身なので、自分が焚火にあたると皆さんに迷惑がかかりますので」と答えた。このため、スタッフだけでなく共演者も誰一人申し訳なくて焚火にあたれなかった。やがて「頼むからあたってください。健さんがあたらないと僕達もあたれないんです」と泣きつかれ、「じゃあ、あたらせていただきます」となり、やっと皆で焚火にあたることができた。撮影が終わり、役者・スタッフの泊まる旅館へ到着し、食堂へ行くと、高倉健と監督の前だけ、皆とは違った豪華な料理が並んでいた。これを見た高倉健は「自分も皆さんと同じ料理にしてください」と申し出た。

 彼が椅子に座らないのも、焚き火にあたらないのも、豪華な食事を拒否するのも…全ての人と同等でありたいという謙虚さの表れです。それを最も表しているのが「呼ばれ方」です。

 高倉健は、80歳を超えた今でも「健さん」と呼ばれています。多くの名優が「先生」「師匠」と呼ばれるようになる中、ファンはもちろんのこと、監督、AD、エキストラの俳優までが「健さん」と呼びます。もちろん、親しみと尊敬の念を込めて。

 高倉健は気配りの人でもあります。周りの人を大切にします。

 2000年、第23回日本アカデミー賞で4回目の主演男優賞を受賞するのですが、その会場でお笑い芸人のナイナイ岡村隆史と一緒になりました。岡村は主演した「無問題」で話題賞を受賞します。その表彰式で司会者から「将来はどんな役者になりたいですか」と質問を受けます。とても、お笑い芸人に尋ねる質問とは思えません。岡村は意を決して「将来は健さんのような役者になりたい」と答えます。もちろん本気ではなく、芸人らしいボケのつもりでした。ところが場所が場所です。突っ込んでくれる相方はいません。会場全体が凍りつき、白けた雰囲気になりかけました。その時…

 会場のテーブル席に座っていた高倉健が立ち上がり、大きな拍手を岡村に届けたのです。

 たった一人のスタンディングオベーション…

 これで会場全てが救われました。最も救われたのは岡村自身です。高倉健はこのとき、岡村に「いつか一緒に仕事をしよう」と声を掛けています。岡村がうつ病で闘病した時も、励ましのメッセージと本を贈っています。そして、今年の主演映画「あなたへ」で岡村との競演を実現させ、約束を果たしました。

 「あなたへ」の撮影現場で、岡村がマスコミのインタビューを受けていました。すると背後に高倉健が姿を表し、チャチャを入れます。そうすることで岡村のインタビュー場面が際立つと共に、映像として流れる回数が多くなるという計算が働いているのは間違いありません。病気を克服してテレビ界に復帰した、岡村に対するエール(心遣い)なのでしょう。

 こうした高倉健の人間的魅力に心酔する芸能人は数多い。ビートたけしもその1人です。

 「あなたへ」でも二人は競演しています。たけチャン、健さんと呼び合う仲です。撮影現場の高山駅にビートたけしが到着した時、迎えに来ていたのは高倉健本人でした。「一刻も早くたけチャンに会いたくて…」と照れて言いますが、ビートたけしが感激しないはずがありません。

 こうした態度は、岡村やビートたけしのような有名人だけに見せるものではありません。名も無い裏方のスタッフ、無名の若手俳優にも変わらぬ態度で接します。

 高倉のファンである中国の映画監督チャン・イーモウは『単騎、千里を走る』の撮影の際、高倉が休憩の時に椅子に一切座らず、スタッフに遠慮して立ち続けていたことや、現地採用の中国人エキストラ俳優にまで丁寧に挨拶していたのを見て「こんな素晴らしい俳優は中国にはいない」と発言しています。

 彼は自ら「俺について来い!」とは言いません。しかし、その態度に惚れて誰もがついていきたいと願います。やっぱり、誰が何と言おうと健さんはリーダーなのです。現場のモチベーションを引っ張り上げる役目を担っているのです。その根底には「自分がこの映画をリードするのだ」という強烈な覚悟と決意が存在することは言うまでもありません。

 実は、塾経営者の中にも意外と家康型(健さん型)のリーダーは多いと感じています。特に、大手塾の経営者は例外なく自己を厳しく律しているものです。そして、自らが決めた目標に対しては妥協することがありません。塾が(塾に限らず全ての企業にとって)ある閾値を越えるには、この経営者の自己規律が不可欠なのかもしれません。

 
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