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塾・新時代のマーケティング論(85)
「思い」を「形」で表すということ

森智勝氏

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 4月、すべての学校、企業で新年度を迎えました。各塾でも春期募集が一段落し、新しい塾生を交えた教室運営に全力を挙げていることでしょう。ところが、そのスタートを狙い撃ちしたかのような報道がなされました。塾業界が常に抱えている著作権法違反の問題です。これまでも、教材を教室現場でコピーして生徒に渡すことが問題視されてきましたが、今回は教科書のコピーが指摘されています。正直、法律の専門家ではない私は、どこまでが許されて、どこからが違反なのかが分かりません。ただ、こうした報道の影響については心配をしています。

 報道では塾業界の規範意識の低さが指摘されています。

*中小の塾の中には学校の授業内容に合った講習を行うため、教科書などを半ば公然とコピーして使っている実態があり、影響を懸念する声が上がっている。

*「丸写しは今までもあった。今回たまたま見つかっただけ」。札幌市で小学生から高校生対象の個人塾を経営する男性は、こう打ち明ける。男性によると、自分の塾も含め、多くの塾では生徒の内申点を上げるため、定期テストでの高得点獲得を目指している。教材を作る場合、他の問題に置き換えにくい国語や英語で、教科書をほぼそのまま転載することが珍しくないという。男性は「すべてのコピーなどが禁止されたら、独自の教材作りのノウハウを持たない個人塾は成り立たない」と話す。

*別の中高生対象の個人塾を経営する男性も「定期テスト対策で穴埋め問題を作る時は、教科書をコピーする」と無断利用の実態を認める。

*他の塾経営者も「単発のプリントとして、教科書の一部を数字などを変えて使うことはある」と証言。別の経営者も「数字を変えるなど、うまく加工すれば分からない」と話し、中には購入した塾用教材を切り貼りし「オリジナル」と称して使っている例もあると明かす。

*背景には中小経営者らの著作権に対する意識の希薄さもある。ある個人塾の経営者は「個人塾で使う分には問題ないと思っている」とあくまで「合法」と主張した上で、「厳しく規制されるのなら、指導を変えなければいけない。あまり個人使用に関しては厳しく言わないでほしい」と嘆いた。

 こうした事例が新聞やネットで報道されています。多分、多くの保護者が目にしていることでしょう。そうした時、あなたの塾が教科書やワークをコピーした教材を生徒(我が子)に渡していることを知ったら、どう思うでしょうか。昨今は毎日のように「中国のパクリ?問題」がテレビで報道され、日本中が著作権のコンプライアンスについて過敏になっています。「著作者にばれなければいい」という安易な考えでいると、市場から痛烈なしっぺ返しがくることは間違いありません。マーケティングの観点から見ても、得策ではないと思います。

 私と同じように、著作権については詳しくない塾人が大半でしょう。業界をあげてのガイドライン作りが進むことを期待します。

 さて、今年の春の甲子園大会が終りました。高校球児の溌剌としたプレーは、いつものことながら気持ちのいいものです。そうした中、素晴らしい光景があったことをお伝えします。それは、1回戦の石巻工業対神村学園の対戦の中、正確には試合終了直後に起こった出来事です。ご存知のように、石巻工業は大地震、大津波の被災を克服して21世紀枠で甲子園出場をかち取りました。主将の阿部君の選手宣誓は立派でした。対する神村学園は鹿児島代表、初出場で準優勝をしたことがある強豪校です。下馬評では神村学園有利と言われていました。途中、4点差を逆転するという健闘むなしく、石巻工業は敗れました。審判を挟んで両チームの選手が整列し、互いに礼をします。その瞬間です。神村学園の選手達は、持っていたグローブと帽子を地面に置き、石巻工業の選手達に両手で握手を求めたのです。

 サヨナラ勝ちでない限り、勝利チームは守備で試合を終えます。当然、手にはグローブがあります。グローブを手にしたまま片手で握手するのが普通です。ところが神村学園の選手達は、整列する時からグローブを外して両手で抱えていました。地面に置く準備をしていたのです。

 石巻工業との対戦が決まった時、神村学園の選手達の気持ちは複雑だったと思います。対戦相手は被災という困難を克服しただけではなく、今なお不自由な生活を余儀なくされている地元被災者達の思いを背負って来ています。日本中が相手チームを応援するのは目に見えています。しかし、試合には正々堂々と全力で臨まなければなりません。その上で、彼らは被災地からやってきた相手に対する敬意、その背後に存在する多くの被災者へのエールを表する行動を考えました。それが選手間の相談だったのか、指導者からのアドバイスだったのかは分かりません。それでもあの瞬間、日本中の高校野球ファンの心に爽やかな風が吹いたことは間違いないでしょう。

 被災地に勇気と笑顔を…言うのは簡単ですが、行動で表すのは難しい。それを神村学園は見事にやってのけました。「思い」は「形」で表さないと届かない…私が塾経営のアドバイスをする上での基本です。多くの塾が「面倒見の良さ」「とことん教えます」「学力だけではなく人間力の向上を目指して」等々、自塾の独自性を主張します。しかし、それを「形」で表している塾は少ないものです。「形」で表さなければ、どんなに崇高な主張も相手には届きません。

 それぞれの塾にはそれぞれの理念があり、指導方針があります。それが具体的な「形」となって現場で表現できているかを考えてください。これは、ある塾の例ですが、「とことん、分かるまで指導します」と主張していながら、居残り学習は午後10時までと規定しています。理由を尋ねると、「ほとんどの家庭が車で送迎していますので、それ以上延長すると保護者に迷惑が掛かります」との答え。これでは主張と矛盾しています。「子どもの学習意欲を伸ばします」と主張しながら、ネチネチとした?叱り方で生徒のモチベーションを大きく下げている講師を見逃している塾もあります。

 「神は細部に宿る」と言います。大きな理念は小さな細部の積み重ねの上に成立するものです。掲示板ひとつ、挨拶の仕方一つに理念が宿っているか、ゴールデン・ウィークまでに総点検をしましょう。「形で表すこと」とは、「形式主義に陥ること」とは違います。その対極に立つことです。

 4月は全ての生徒のモチベーションが高い時期です。そのモチベーションが維持・向上され、全ての生徒が活き活きと生活できること、そのためにあなたの塾が学習面で大きな貢献をされることを心から期待しています。

 
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