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塾・新時代のマーケティング論(81)
感動の視点を掃除にも取り入れよう!

森智勝氏

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 「人を納得させるのには論理が必要であり、人を行動させるには情熱が必要だ」

 言い古された格言ですが、真理です。では、「人を行動させる情熱」とは何でしょう。気を付けなければ単なる「思いの押付け」になり、逆効果です。例えば、路上ライブをしている若者が叫びます。「俺達の音楽は最高だぜ!売れないのは、世間が俺達に追いついていないからだ!」…確かに、音楽に対する情熱は持っているのかもしれません。しかし、これでは人を行動に駆り立てることは難しいでしょう。

 私は、行動に駆り立てる源は「感動」にあると考えています。人は感動すると行動せざるを得ない生き物です。例えば映画を見て感動した人は、友人に対して「ねえ、あの映画見た?」と自ら話題を切り出します。感動を共有したくてしかたがないのです。

 では、感動とは何でしょうか。それは、「満足を超えた部分」を指します。人は全てのことに期待値を持っています。例えば、缶コーヒーを買う時は120円分の期待値になります。そのコーヒーを飲んだ時、期待値に届けば「満足」です。届かない場合は全て「不満」です。二度とその缶コーヒーを買うことはないでしょう。では、満足した人は次も同じ缶コーヒーを買うかと言えば、そうとは限りません。

 とあるレストランの例です。来客にアンケートをとったところ、90%の人が「満足」と答えました。ところが追跡調査をしてみたら、その満足と答えた人の6割が再来店していなかったのです。なぜでしょうか。

 そのレストランの食事代が1万円だったとします。「払った対価に見合うだけのものを得た」と思えば、人は満足と答えます。しかし同時に、「1万円払ったのだから、満足するのは当たり前」とも感じているのです。これではリピートにつながりません。1万円という期待値を少しでも上回るものを提供しないと、客を感動させることができないのです。そして、感動させないとリピーターにもならず、口コミ・評判を拡げてもらうことも叶いません。

 理屈は塾経営でも同じです。生徒・保護者を感動させることが塾の発展には不可欠です。相手が想定する「塾がやりそうなこと」「塾教師が言いそうなこと」を上回ってはじめて、相手を感動させることができます。

 その基本は当然、教務力です。生徒も保護者も日常的に学校教師の教務力を知っています。当然、塾教師はそれと比べられます。また、近隣他塾の教務力とも比較されています。比較対象が増えれば増えるほど、「客」の授業に対する期待値は嫌でも高くなります。それを上回る授業を提供することは並大抵ではありません。授業研修を疎かにしている塾は早晩、地域から見捨てられます。

 少なくとも、教科書通り、参考書をなぞったような授業しかできない教師は失格です。以前、私塾界のセミナーで披露された優秀教師の模擬授業を拝見したことがあります。彼は、助動詞のmustとmayを説明するために引き伸ばした自らの顔写真を使い、「コイツが犯人かもしれない」「いや、コイツが犯人にちがいない」と劇場仕立てのパフォーマンスを見せてくれました。たった1分程度の説明のために彼が費やした準備時間は膨大です。でも、だからこそ生徒の記憶に知識が刻まれ、評判を作っていくのです。あるカリスマ教師は島原の乱を説明する時、「天草四郎、本名益田四郎時貞、この時、若干16歳。君たちとほぼ同世代だ」と講談調で語ります。教科書に載っていない(テストに出ない)知識をサラッと披露することで生徒の期待値を上回ります。

 家庭の意識が高くなると授業に対する期待値も高くなり、また、他塾の授業レベルも向上を続けますので、ここだけで感動を提供することは難しくなります。クオリティの高い授業は必要条件ですが、それだけでは充分条件にはなり得なくなります。そこで、あらゆるところにも「感動」を提供することが必要になってきます。

 例えば、塾が保護者会(教育セミナー)を開くことは通例です。ところが、多くの塾が保護者を疲れさせて帰しています。読めば分かることに不必要な時間を掛けて説明し、参加者を退屈させています。保護者会に参加する人は、やはり一定の期待値を持って来塾します。その期待値を上回る話を用意しなければなりません。塾都合ではなく、保護者視点の準備が必要です。保護者が「参加して良かった」と感動して帰ってくれる催しでなければ、逆効果になります。

 どの塾でも門配をしています。配布物は決まって「冬期講習の案内」と、ちょっとした販促品です。これでは貰った生徒は感動しません。もし、昨日終了したばかりの定期テストの模範解答が配られたらどうでしょう。生徒が解答を知るのは早くて次の学校授業、先生の都合で「次の次」ということも珍しくありません。そうした時、塾がいち早く模範解答・解説を作成して配布すれば「この塾は凄い」という評判が作れるのではないでしょうか。工夫次第で可能だと思います。門配は誰にとっても辛い業務です。せっかく辛いことをするのでしたら、効果的な方法で実行したい。生徒を感動させる方法を考えたい。ややもすると、門配という本来手段であるべきものが目的化され、形式的な業務と化している塾を見かけます。これではもったいない。

 全ての企画、業務に、「相手の想定(期待値)を上回る視点」を持つことです。すると、一見つまらなく感じるルーティーン・ワークにも「やり甲斐」を見出すことができるようになります。スタッフのモチベーションも上がります。日々の掃除・整理整頓も、「どうすれば来訪者が感動するだろう」と考えながら行なえば、違った風景が見えてくるはずです。

 多くの塾が生徒の「聞く耳」を作るため、授業の冒頭に3分間スピーチを導入しています。しかし、そこで本当に生徒のモチベーションを上げ、高揚感を持って授業に向かわせている教師は少ない。3分間スピーチそのものが定例化され、形骸化しているからです。スピーチも、「感動視点」を導入すれば自ずと変わってきます。教師のアンテナが立ちますので、それまで見えていなかった情報が飛び込んで来るようになります。塾内のスピーチ・コンテスト等の実施によって教師側のモチベーションを保つ工夫をしている塾もあります。個別指導の塾なら、「3分間スピーチの替わりに掲示板に毎日メッセージを掲げよう」とアイディアも降って来ます。

 そうした一人ひとりの小さな積み重ねが集まって、全体として「凄い塾」は作られます。

 塾業界の逆風は止みそうもありません。しかし、ヨットは向かい風の時でも前進できます。逆風の中、多くの塾が萎縮している今こそ、自塾の「凄さ」をアピールするチャンスです。「どうすれば全ての人を感動させられるか」を念頭に、業務を見直してください。必ず、新しい風景が見えてくることでしょう。

 いよいよ冬期講習が始まります。塾業界、最多忙期の始まりです。今こそ、塾人の底力を見せる時です。全ての方の奮闘を期待しています。

 
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