HOME > 塾経営最強コラム > 経営者(上司)の仕事は部下のモチベーションアップ

塾・新時代のマーケティング論(76)
経営者(上司)の仕事は部下のモチベーションアップ

森智勝氏

写真

 塾教師にとって生徒のモチベーション(学習意欲)を向上させる能力は絶対に必要です。同様に、塾経営者には全社員・スタッフのモチベーション(労働意欲)を高める能力が求められます。

 以前もお話しましたが、今の若者は「自己責任」という言葉に縛られて成長しました。「勉強は自分の将来のため」と教えられて育ちました。結果、仕事も「自分の生活のため、自分が幸せに生きるため」と考えている若者が増えています。彼らは、自分さえ今の生活レベルに納得していれば、無理をしてまで働くことはないと考えています。ニート・フリーターが爆発的に増加している原因の一つです。

 しかし、人として生まれた以上、幸せに生きることは目的ではありません。権利です。誰もが等しく神から与えられた権利です。ただ、権利を行使するには義務を果たす必要があります。その義務とは、陳腐な表現ですが「世のため人のために働くこと」です。そうした生き方をしている者は、自動的に幸せな人生を送ることができます。こんな当たり前のことから説明しなくてはならないのが残念ですが、今の若者は「そんな当たり前のこと」すら知らずに育っています。

 さて、その上でスタッフのモチベーションアップを図らねばならないのですが、残念なことに一定の方程式はありません。誰もが共通してモチベーションを高める手法などは存在しないのです。逆は簡単です。誰もが労働意欲を失う方法は山ほど存在します。例えば…

 ある中小企業の「幹部会議」での社長の発言です。

 「ウチは社長がガミガミ言わない恵まれた会社だ。ところが、それに甘えて君たちはやるべきことをやっていない。何を考えているんだ。こんなこと、言われないようにちゃんとやれ」とガミガミ言っています。普段、適切な指示も与えず、そのくせ社員の行動が意に沿わないと文句を言います。そのうち社員は社長の顔色ばかりを伺い、萎縮を始めます。

 社員の離職が止まらない企業経営者のセリフです。

 「人が辞めることは今までもあったし、別にどうってことはない。それよりも、肩書きだけで何もしない社員はドンドン辞めて欲しいくらいだ」と、社員を前に檄を飛ばしています。これを聞いている社員たちは、この会社は人を大切にしないところだと実感し、デキル社員から次々と辞めていきます。

 若手社員が企画書を課長に提出した時のことです。企画書を目にした課長は、その企画がダメな時は「こんな陳腐な発想でしか物事を考えられないのか」と叱責し、企画が素晴らしい時は「そう、よく気が付いたな。私も同じことを考えていた」と手柄を横取りします。若手社員は、二度と課長に企画書を提出しようとは思わなくなります。

 こうした事例は枚挙に暇がありません。経営者も上司も、部下に活き活きと仕事をしてほしいと望んでいるはずなのに、逆のことばかりを実践しています。

 こうすれば必ず部下のモチベーションが上がるという魔法の杖はありませんが、原則を伝えることはできます。それは、「仕事を与えること」です。司馬遼太郎の小説の中に、次のような場面が登場します。秀吉が敵方の武将に信長に味方するように説得する場面です。

 秀吉が「信長様は部下を愛でておられます」と言うと、相手が言い返します。「何を言うか。信長ほど部下を駒のように酷使する大将はおるまい」  これに秀吉が反論します。「これは笑止。男が愛でるというのは寵愛することではなく、仕事を与えることではありませぬか」

 仕事は人にとって自己実現の場です。仕事によって人は自分の存在価値を実感できます。仕事を与えることは、相手のモチベーションをアップさせる重要な要素です。ただ、気を付けたいのは「仕事」と「作業」は違うということです。作業とは「時給700円のパートのおばちゃんでもできること」、仕事とは「その人にしかできないこと」を意味します。

 例えば、テスト前に教室長が「テスト対策のプリントを作ったから、生徒に配ってください」と指示をするのは作業です。プリントを配るのは誰にでもできます。仕事を与えるとは、「今度のテストに向けて、過去の問題を精査して対策プリントを作ってください」と指示を出すことです。完成したプリントは、出来の良し悪しは別にして、その人にしかできない「仕事」になります。同様に、「掲示板が殺風景なので、君のセンスでデコレートしてくれないか」と頼むのも仕事を与えることです。

 作業ではなく仕事を与えることが、相手のモチベーションを高めるには不可欠です。ただ、若い社員は経験不足であり、未熟な点があることは否めません。上司の期待通りの仕事ができるとは限りません。また、どれだけ成長のきっかけを与えても響かないことも多々あります。そんな時、重要なのは「諦めないこと」です。

 「あいつは何度言っても変わらない。何をやっても無駄だ」

 上司が部下を見限る時に吐くセリフです。しかし、「何度…」とは具体的に何回のトライをしたのでしょう。二度や三度の試みで失格の烙印を押すのは早計です。

 私は4%理論というのを提唱しています。人が人を変えることができる確率は4%です。百人を前に訴えて、それで変化するのは4人です。これを低い確率と見るか、高いと見るかで行動が違ってきます。少なくともリーダーたる者は、96%の空振りを無駄だと思わずトライし続ける情熱が必要だと考えています。この確率を応用すれば、一人の部下に対して25回のトライをしてから烙印を押しても遅くないと思います。人は、何がきっかけで内なる魂に火がつくのか…誰にも分からないのですから。

 この「内なる魂に火を付けること」を動因と言います。それに対して、外的要因で行動を促すことは誘因です。例えば、「次のテストで100点を取ったらゲームを買ってあげる」というのが誘因です。誘因は、行動のきっかけとしては有効です。火をおこすときの火種です。しかし、それだけでは本当の意欲にはつながりません。きっかけは何であれ、学習した成果を実感し、自分に対する自信が芽生えるという「成功体験」(動因)が伴わなければ、持続的なモチベーションにはなりません。

 大人も同様です。報酬や待遇は重要な誘因ではありますが、けっして動因にはなりません。「日々の中で最も嬉しい瞬間は?」と尋ねられて、「給料日」と答える人はいないでしょう。ほとんどの人が「生徒、保護者から『ありがとう』と感謝された時」と答えるはずです。そう、自分が人の役に立った実感を持てた瞬間です。それこそが労働意欲を高める動因であり、人が変わる瞬間です。

 経営者(上司)の仕事は、部下に対して「その瞬間」を与え続けることです。少なくとも25回は…。部下に烙印を押すのは、それからでも遅くありません。

 
Copyright © 2014 全国学習塾援護会 All rights reserved.