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塾・新時代のマーケティング論(75)
自塾の体質改善はWIN-WINを念頭に

森智勝氏

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震災が襲ったのが3月11日。それ以降、テレビでは延々と悲惨な被災地の様子が流れます。とても、家庭で「塾、どうする?」という話題を持ち出しにくい雰囲気です。

中小・個人塾は、春期募集のタイミングが遅く、2月、3月が中心になります。正月明けから、早いところは12月から0次募集を開始する大手塾とは違います。また、「今年からこの塾に入ろう」と決めていた家庭はいいのですが、中小塾の多くは、「どの塾」の前に「塾、どうしようか?」と揺れている家庭がターゲットになっていることが多い。その層が軒並み「様子見」に傾いてしまいました。多くの中小塾が苦戦を強いられているのは無理のないことです。大手でも震災以降、入塾の動きが止まったという塾が多いのではないでしょうか。

しかし、手をこまねいている暇はありません。日本の企業は、こうした国難をチャンスと捉え、体力の強化に努めてきました。ドルショックの時、オイルショックの時、バブル経済破綻のとき、そして、阪神淡路大震災のとき…。

塾も例外ではありません。

ピンチはチャンスです。5年後、10年後に笑って、「2011年の困難があったから、自塾が成長できた」と言えるようにしましょう。今年は、間違いなく業界のターニング・ポイントです。キーワードはWIN-WINです。とあるゴルフ場の例を挙げます。

そのゴルフ場は設計者も一流、景観も申し分なく、従業員のサービスも素晴らしい。それだけでも充分なゴルフ場なのですが、何と、加えて「朝食無料」のサービスを提供しています。

ゴルフをしている人はご存知だと思いますが、ゴルフ場のレストランはホテル並みに料金が高い。カレーでも2,000円というのが普通です。そんなところで朝食を取る人は少なく、朝のレストランはガラガラというのが日常です。

ところが、そのゴルフ場のレストランは、朝も昼食時並みに賑わっています。まあ、「せっかく無料なのだから、ちょっと早く行って食べよう」という心理になるのは当然です。「朝食無料」は多くのビジネス・ホテルでも導入されていますが、経費削減、亭主の小遣い削減の続く中、嬉しいサービスです。ただ、このゴルフ場の「朝食無料」には別の狙いが隠されています。

ゴルフ場の朝、最も忙しいのはキャディ室です。予約に合わせてキャディの割り振りやカートの準備、ゴルファーのキャディバッグの移動と、キャディ室は戦争状態になります。特に、予約のキャンセルや客の遅刻があると、そのオペレーション作業はますます困難になります。

私も覚えがあるのですが、車でゴルフ場の玄関に到着すると、いるはずのキャディがいない。準備を終え、自分のカートのところへ行くと、自分のキャディバッグがない…もう、イライラします。それだけで朝から気分が悪いものです。ところが、そのゴルフ場は出迎えの対応から接客のサービスまで、見事に行き届いていると言います。理由は…

朝食無料にしてから、遅刻とキャンセルが激減したからです。ゴルファーの中にはスタート時間ギリギリに到着してコースに出るという人が多く、何かの道路事情で渋滞があれば、即、遅刻です。ところが、ゴルフ場で朝食を取ろうとすれば自ずと到着は早くなります。こうした工夫によってキャディの無駄な作業が減り、その分を前向きなサービスの仕事に振り向けることが可能になったのです。朝に気持ちの良いサービスを受けると、一日中爽快です。

レストランは、客が多かろうが少なかろうが一定の人員を配置することが必要です。そして、当然のことながら最も経費が掛かるのが人件費です。このゴルフ場はビュッフェ形式の朝食会場にすることによって最大限の人件費を削り、「朝食無料サービス」に掛かる経費を大きく上回る売上増を実現しています。

ゴルフは一日がかりのレジャーです。朝の対応が悪く、スコアも悪ければ「二度とこのゴルフ場には来るものか」と思うのが人情です。また、招待したゴルフ場の会員にしても、キャディマスターの手違いで同行者に不愉快な思いをさせるのはバツが悪い。逆に同行者の遅刻でゴルフ場に迷惑を掛けるのも会員としてバツが悪い。

朝食無料サービスは、そうしたゴルフ場、会員、ビジター(ゲスト)の三方が気持ちよく空間を利用するための大きなアイテムになっているのです。WIN-WIN-WIMです。

これは塾の現場にも参考になります。文字通り、簡単な夕食を用意する塾もあります。部活帰りに直接、塾に来てもらうのが目的です。そのことで遅刻を防ぐ効果があります。

遅刻生が多いと居残り授業等が多くなり、人件費と教師の疲労感がかさみます。また、居残り授業を常態化すると、「どうせ延長して指導してくれるのだから、ゆっくり行くか!」というモラル・ハザードを作り出してしまうかもしれません。最もマイナスなことは、遅刻をすると学習効果が著しく低下することです。テスト前の指導負担は甚大です。また、それを放置すると塾の評判が低下します。塾にとっても生徒にとっても良いことは何もありません。

塾が夕食を準備することで遅刻を無くすことができるのならば、(有料・無料は別にして)費用対効果は高いと思います。これはあくまでも一例ですが、何かを改革する時はWIN-LOSEではなくWIN-WINを念頭に考えることです。ややもすると、単にスタッフに負担を求めるだけの改革であったり、顧客サービスを低下させるだけの経費削減になったりします。それでは本当の意味での体質改善にはなりません。

 
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