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塾・新時代のマーケティング論(61)
マーケティング的マネジメントⅡ

森智勝氏

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 先月号で「日本企業が成果主義に突き進むあまり、かえって非効率な業務形態に陥っている」という指摘をしました。これは、他の一般企業に顕著な現象ですが、塾業界でも同じ傾向が見られます。

 塾業界には明確な「営業部」は存在せず、教師がその務めを兼任しているのが通例です。チラシやホームページ、入塾案内等を専門に担当する部署を抱えている塾はあるでしょうが、「口コミ・評判」という発展の生命線を握っているのは圧倒的に「現場」です。これが、「プリウス」という明確な商品を扱っているビジネスとの大きな違いです。「プリウス」ならば、どこのディーラーから購入しても商品力に違いはありません。そのため、ブランド力を構築するのはコマーシャルを中心としたマーケティング戦略に依存します。あとは、個々のディーラーのセールス力さえあれば、基本的に商品は売れていきます。

 ところが塾の場合、目に見える明確な商品がありません。あえて言えば「授業」であり、それを提供している個々の教師そのものが商品と規定できます。そして、この場合、「商品」がセールスマンも兼務していると考えていいでしょう。

 その現場教師が「私の仕事は英語を教えることだ」と考え、それ以外の業務を拒否した場合、塾というビジネスは成立しません。もともと、教育という究極のアナログビジネスである塾に成果主義は不向きであり、専門家(エキスパート)だけの集団ではビジネスが成立しません。例えば、教務のエキスパートがそのまま教室長(マネージャー)として通用するわけではないことは、過去の事例から充分ご存知のことでしょう。担当分野においてはエキスパートであり、同時に、他の分野にも精通しているゼネラリストでもあるという、困難な命題が塾人には突きつけられています。

 各々が「タコツボ」に引きこもる個人主義では、そうした人材の集合体を作り上げることは不可能であり、組織がチームとして機能することはありません。

 私は、塾はスポーツで言うと野球に似ていると考えています。団体競技の中で、「一人の力では勝てないが、時には一人の力で勝つこともあるゲーム」は野球だけです。(一人の力で勝てる試合は稀であり、プロ野球のようなリーグ戦に勝利することはありませんが。)また、公式記録に「失策(エラー)」という項目を持つのも野球だけです。局面では個々のプレーヤーの力量が明確に測られますが、勝敗を分けるのはチーム力です。

 1つの塾、1つの教室を野球のチームに見立てた場合、なすべきマネジメントが見えてきます。

 まず、チーム力はメンバーの力量の足し算ではなく掛け算であるという認識を全員に持たせることが必要です。足し算ならば、10+0=10ですが、掛け算では0になってしまいます。英語教師の力量がたとえ10でも、数学教師の力量が0では、塾に通う生徒はいなくなります。教務の面だけではなく、全ての分野において最低限度の力量は身に付けてから人材を現場に投入することです。以前もお話しましたが、人材は3種類に分かれます。
人財=企業に利益を与える人材
人在=ただ存在するだけの人材
人罪=企業に不利益を与える人材

 社会人として、塾人として最低限度のスキル(教務以外を含む)をマスターしていない人材は間違いなく「人罪」です。それは、不良品を売るのと同じです。チーム力を0にしてしまい、企業の評判は一気に地に落ちます。ある大手塾の経営者の台詞を聞いたことがあります。「当塾が唯一後ろめたさを感じるのは、まだ未完成の教師を現場に立たせなければならないことだ。しかし、一人前の教師に育てるためには避けては通れない。」その塾は厳しい採用基準と研修によって、充分現場で通用する新人を教壇に立たせています。つまり、最低限度のスキルを身に付けた教師だけを現場投入しています。それでも、なお、この認識を持っているのです。

 重要なことなので繰り返します。塾は足し算ではなく掛け算で評価されます。

 次に重要なことは、個々の業務は明確に区別できる分野と、あいまいな分野が存在するという認識を持たせることです。例を挙げると次のようなことです。

 英語の教師の不用意な一言(エラー)で、ある生徒が傷付いたとします。その時、それは英語教師の責任だからと、他のメンバーが「知らぬ存ぜぬ」では済みません。チーム一丸となって事後処理に当たらなければなりません。教室長(校舎長)をはじめ、全員の「業務」になります。また、問合せの電話に出たのが新人だろうと、事務の女性スタッフだろうと、相手には関係ありません。受話器を取った者が塾(教室)の代表者です。塾を代表して対応しなければならないのは言うまでもありません。

 「タコツボ職場」では、電話が掛かってきた時、「誰かが出るだろう」と誰も受話器を取ろうとしません。ビジネス・マナーでは「呼び出し音3回までに出る。それを超えたときは『お待たせしました』と相手に断わる」のが常識です。その職場がタコツボ化しているかどうかは、電話の呼び出し回数と対応者の数で分かります。役所に電話したとき、「担当者に代わります」の一言で待たされ、やっと出た担当者に「どういったご用件でしたか?」と対応されて腹が立った経験をお持ちの方は多いはずです。あれは、役所がタコツボ化している象徴です。

 来訪者があった時も同様です。誰かが対応するだろうと、我関せず自分の業務に没頭している人を見掛けます。タコツボに引きこもっているのです。業務には責任所在があいまいな部分があり、全て自分の仕事のつもりで取り組む姿勢が求められます。

 さて、そうした認識を共有し、チームとして最大限の力を発揮するためにはどんなマネジメントが必要でしょう。マーケティングの視点から見ると、遠回りなようですが「理念の落とし込み」から始めることをお勧めします。

 人は消費行動をするとき、意識・無意識に関わらず商品力以外の部分に大きく左右されています。例えば、花や絵画は生活必需品ではありません。しかし、その店が提唱する理念、例えば「花のある生活で心を豊かに!」という言葉に共鳴して購買行動に移します。それは、車でも映画でもリゾートでも同じです。企業理念そのものを明確には知らなくても、そこから醸しだされる風土・文化に人は影響を受けるのです。

 「自由でみずみずしい発想を原動力に、すばらしい夢と感動、ひととしての喜び、そしてやすらぎを提供します。」これは東京ディズニーリゾートを経営する株式会社オリエンタルランドの経営理念です。多くのファンを獲得している源泉がここにあることを疑うことができません。

 先日、テレビで偶然、「餃子の王将」の新人研修の様子を見ました。会社の理念を必死で暗記する様子が映し出された時、スタジオでコメンテーターを務めていた「ワタミ」の総帥である渡辺氏が「当社でも年に1回、社員全員が企業理念を覚えているかどうかを調べる筆記試験がある」旨の発言をしていました。

 これはネットワーク・マーケティング(フレンドシップ・マーケティング)には欠かせない要素です。企業のファンを組織するためには商品力だけでなく、企業力と言うべき力が必要です。そして、その根本には企業理念があります。

 「パートさんが帰りに買い物をしていくスーパーは流行る」という格言がありますが、社員が自社のファンにならなくて、どうして一般消費者をファンにすることが出来るでしょう。まず、社員・アルバイトを問わず、自社のスタッフを自塾のファンにすることです。

 その第一歩が理念の落とし込みであり、共鳴(共通理解)です。それさえクリアできれば、あとのマネジメントは楽です。次回、続けてお話します。

 
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