HOME > 塾経営最強コラム > マスター・ビジネスを展開するために

新時代のマーケティング論(26)
マスター・ビジネスを展開するために 2007年5月私塾界掲載分

森智勝氏

写真

塾業界に限らず、日本国内では多くの業界が商品飽和状態になっています。どの家にもテレビ、冷蔵庫、クーラー、車があり、それも複数台所有している家庭がほとんどです。そうなると、かつての高度経済成長時代のように「持たざること」が購買理由にはなり得ません。誰もが「これ以上必要なもの」を見つけあぐねているのです。

塾業界では「ゆとりの教育」がその状況に拍車を掛けました。特に小学生を対象とした補習塾は壊滅状態と言ってもいいでしょう。教科書は「絵本」と間違うほど薄くなり、学習レベルは落ちる一方です。テストはほとんどの児童が80点以上取れるような容易さであり、絶対評価の元で下される通知表評定は大半の児童に○(◎、○、△評価の場合)以上が並ぶことになってしまいます。それを見た保護者は「ああ、うちの子は真ん中ね。」と安心し、補習に対するニーズを感じることはありません。これでは補習塾に必要性を感じなくなるのも無理はありません。

かつて学習塾が「必要悪」扱いをされていた時代、塾人自らが次のような理論武装をしていました。曰(いわ)く「学習塾は学校の補完機関です。」学校授業の補習によって、学校授業についていけない子供たちの助け(サポート)をしているという理屈です。この理論武装が有効だったのは「ゆとり教育」が導入される前、1970年代に七五三教育(学校授業についていけない子供の割合が高校で7割、中学で5割、小学校で3割)と言われていた時代のことです。学校での学習内容が半減してしまった現在では意味を持ちません。

今、小学生部門が好調なのは中学受験であり、英会話であり、サッカー等のスポーツ教室です。いずれも学校では取り組んでいない分野ばかりです。もはや教科書準拠のワークを使用する補習塾は、一部の救済塾を除いて成立しないと言っても過言ではないでしょう。

同様の現象は5年~10年のタイムラグを経て中学生部門にも現れてきます。子供にとって高校受験は人生で初めて迎える試練(ハードル)と言われてきました。「15の春を泣かせない」という言葉があったくらいです。また、受験における内申書の重要性が「補習塾」の成立要件にもなっていました。しかし、中学校にも絶対評価が導入され、また、少子化と私立志向の高まりから公立高校の合格難易度は下がる一方です。定員割れする学校が続出する地域も珍しくありません。受験ニーズは確実に中学受験と大学受験の2極化へと集約され始めています。かつて、私の通っていた香川県の中学校では毎年10名程度の中学浪人生が存在し、彼らのための浪人クラス?があったことを記憶しています。今、日本中に正当な意味での中学浪人生は皆無でしょう。

現在の日本では塾業界においても「持たざること」は購買理由として存在しないのです。「学校ではできないこと」。それがこれからの成長のためのキーワードです。

高度経済成長時代の購買理由は単純でした。「持っていないから」が最大の理由です。ところが現代の消費者は「すでに持っている」わけですから、特別な購買理由がありません。日本の車は優秀で、乗ろうと思えば10年でも(多分20年でも)乗れます。すでに車を所有している人にとって、買い替える理由(特にニーズ)を探すのは本当に難しい。しかし、消費活動は人にとっての快感ですから、人は無意識のうちに購買理由を探しているものです。

こうした市場では消費者に対して購買理由を提示する(教える)マーケティングが不可欠です。飲食店では「特選素材」と銘打って、その産地、生産者のこだわり等の薀蓄(うんちく)を並べ、その料理を注文する理由を「これでもか!」というくらいに提示しています。健康ブームに便乗して、肥満、高血圧、血糖値等に対する脅迫?まがいの食品コマーシャルがテレビには氾濫しています。こうした手法を「マスター・ビジネス」と言います。消費者を教育しながら顧客獲得を目指す手法です。

塾にとってもマスター・ビジネスは不可欠な時代になっています。地域に対して情報を発信し、教育し、自塾の必要性を理解してもらうのです。「そこにある危機」に気付かない人に「気付き」を与える作業です。その「説得方法」が上手くないと客は集まってきません。

基本は「ハリウッド・パターン」(ハリウッド映画の基本パターン:アメリカ型起承転結)です。
① 問題の発生
② 問題の深刻化
③ 解決法の発見
④ 困難な道のりと主人公の成長
⑤ 劇的な成功

「学力低下」を題材にすると次のようなパターンでしょうか。
① 各種の調査で子供の学力低下が顕在化した。
② 家庭学習をしない子供の割合が先進国の中でトップになった。
③ 当塾では独自の「スパイラル学習法」によって学習時間を確保し、成果をあげている。
④ この学習法の確立には5年の歳月と一緒に取り組んでくれた多くの先輩塾生の存在があった。
⑤ 結果、昨年度は平均偏差値が5ポイントUPし、受験生全員の志望校合格を達成した。

重要なのは③の独自の解決法(暗黙知)の存在です。これが無ければ、いくら教育しても解決法を持っている他塾へと客は流れてしまいます。独自の解決法が相変わらず「教科書準拠ワークによる復習」では通用しません。

塾がマスター・ビジネスを展開するために必要なものは「面談」「教育セミナー」「ニュースレター」等のハードはもちろんなのですが、やはり、個々の指導者の人間力の向上が不可欠です。人として塾生から保護者から尊敬される「人」の発した「言葉」でなければ説得力を持ちません。

そう、塾で働く全てのスタッフがマスターに、メンターになる必要があるのです。

 
© 2015 全国学習塾援護会