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新時代のマーケティング論(23)
「感情の論理」を支える人間力 2007年2月私塾界掲載分

森智勝氏

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先月号で「資本の論理」に代わる「感情の論理」についてお話しました。「物余り時代」の消費者は1円でも安いという物理的要素が購買決定になりにくく、感情の動きによって購買決定をしているという論理です。と言うことは、いかにして消費者の感情を刺激するかが重要になってきます。そして、そのためには消費者が気付いていなかった価値観を提供するマスタービジネスが必要だと述べました。あなた(あなたの塾)がメンター(師匠)になって消費者に新しい世界を見せてあげるのです。

例えば、繁盛している書店では平積みしている本に「失恋したときに傷付いた心を癒してくれる本」などとポップが付けられています。また、「店長おススメの本コーナー」を設けている店もあります。同様の試みはレンタルビデオ店でも盛んに行なわれています。私が利用するレンタルビデオ店には「松本人志(ダウンタウン)のおススメ映画コーナー」があります。

人気のラーメン屋には決まってスープや背脂(せあぶら)等のウンチクが掲げられています。あれもマスタービジネスです。名古屋地方の人気グルメ番組では「一流シェフがお気に入りの店」をリレー形式で紹介する企画が何度も放映されています。そこで紹介された店は翌日から予約が殺到するそうです。考えてみれば、今話題の「あるある~」は、そこで紹介された食材がバカ売れするため、スーパー関係者必見の番組でした。

こうした現象が何を意味しているかと言えば、物余り時代は同時に情報氾濫時代であり、消費者は自らの意思では商品選択が出来なくなっているということです。そのため、「口コミ・評判」というアナログが重要視される時代になっていて、デジタルの最先端、ネットショッピングでも必ず「利用者の声」が「星の数」と共に掲載され、購買決定の重要な要素になっています。いつの時代でも、人は共感・共鳴を求めているのです。

また、全ての消費者は生きていくためには消費活動が必要なことを知っています。すると、同じ消費をするのならば、好きな人、好きな店で消費をしようと考えるのです。あなたも、懐石料理を食べるのならばこの店、ガソリンを入れるのならばこのスタンドと決めている店があるはずです。価格最低競争に参加している店には「本当のファン」は作れません。

労働集約型産業の塾業界において「人に好かれる人材作り」は重要です。人は「他人の技術」に感心はしても感動はしないものです。塾講師が優れた指導技術だけでは支持されない理由がココにあります。抽象的な言い方ですが「人間力」が求められます。私はこれを「人間的魅力」と理解しています。

ところで「人間力」はどんな場面で現れるのでしょうか。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、私は昨年の秋、声帯を痛め、私塾情報センター主催のセミナーをキャンセルするという恥ずべき不実をしてしまいました。ギリギリまで治療に専念していたため、キャンセルの申し出が前日という最悪の事態です。代表の山田氏は会場の大阪へ向かう新幹線のホームで私の電話を受けました。その時の氏の話した内容は一生忘れられません。

「分かりました。講演のことはご心配なさらずに…それと、講演料を返そうなどと考えなくてもいいですからね。」

本来、大迷惑を受け、緊急の対応に追われる事態になったにも関わらず、「相手が最も言い出しにくいこと」を真っ先に口にする配慮、やさしさ。こうした緊急不測の時にこそ「人間力」が現れるのでしょう。

そうかと思えば、こんな事もありました。

ある塾の団体から講演の依頼がありました。ところが講演日の2週間前になるまでの数ヶ月間、何の連絡もなく具体的な打ち合わせができません。講演料の交渉すらできていません。しびれを切らせて、私の方から講演テーマ、内容等の企画書を作り、正規の日当を記した請求書と一緒にお送りしました。すると、幹事担当者から電話が掛かってきて「講演料は○○円でいいだろうと考え、その金額で理事会の承認を取ってしまいました。」とのこと。唖然としました。

正直、電話やメールで講演依頼を受けるとき、いきなり私のほうから「日当は○○円ですが、よろしいですか?」とは切り出しにくいものです。「講演料はおいくらですか?」と尋ねられて、はじめて「正規の日当は○○円ですが、ご事情に合わせて考慮します。」と答えることができます。

この「相手が最も言いにくいことを先に切り出す配慮」が出来る人と出来ない人の差は大きい。私はそこに「人間力」を見ます。

塾業界における人材育成を考えた場合、指導技術や社会人としてのマナー等のスキルを習得することはもちろん必須です。しかし、それだけでは充分ではありません。前述したように、人は「技術」には感動しないからです。人間的魅力(人間力)を向上させる別のスキームが必要だと考えています。

今年も塾業界では新入社員を迎える季節が近づいてきました。研修担当チームはより良い研修作りに忙しいことでしょう。ぜひ、スキルの習得だけに目を向けず、魅力ある塾人の育成を目指してください。これから「感情の論理」がますます重要になってきます。それを支えるのは塾で働く「人」の魅力です。子供たちが憧れる「大人」を多く輩出する塾が、これからの大激動期を勝ち抜くと私は考えています。

 
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