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新時代のマーケティング論(15)
感情の理論は「形」にして初めて機能する 2006年5月私塾界掲載分

森智勝氏

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早いもので6月。一年の半分が過ぎようとしています。各塾では夏期講習の準備で忙しい時期を迎えていることでしょう。私は春のセミナー巡業も終盤を迎えようとしています。お陰さまで全国私塾情報センター主催の「7大都市縦断学習塾経営セミナー」をはじめ、全国各地を講演で回らせていただき、多くの出会いを経験することができました。紙面をお借りしてお世話になった皆様に御礼申し上げます。そうした中で気付いたことをお伝えします。

ある販社の教材展に招かれてセミナーをしたときのことです。私の講演のあと、主催者側担当者の資料説明(無料配布した高校入試資料についての補足説明)が5分程度あったのですが、多くの参加者(ほとんどが中小・個人塾経営者)がザワザワと話を始めて聴いていない。それどころか、途中で会場を出て行く人もかなりいる。正直、腹立たしい思いがしました。

確かに担当者の話はお世辞にも上手とは言えず、退屈するのも分かります。しかし、その主催者のお陰で得たセミナー(それも無料)のはずです。礼儀として最後まで静かに聴く姿勢を保つくらいの常識があってしかるべきでしょう。彼らは日頃子供たちに「人の話は静かに聞きなさい!」と指導しているはずです。その指導者がこれでは…暗澹たる気持ちになったものです。

業界が右肩上がりの頃、売り手市場の頃は「資本の論理」がほぼ計算通りに機能します。しかし、現在の塾業界のように縮小均衡市場では、そこにプラス「感情の論理」が働くと考えています。かつては「安くて良いもの」ならば無条件で売れたのですが、現在の日本では「安くて良いもの」は巷にあふれ、わざわざ嫌いな人(店)から買う必要がありません。つまり、「安くて良い」だけでは購買理由にならないのです。(必要条件ではあるが充分条件ではないということです。)以前もお話しましたが、かつての日産は「技術の日産」を強調して経営危機になり、「モノより思い出」と主張してⅤ字回復を果たしました。

塾も同じです。伸びている塾の経営者は、大手・中小にかかわらず、自らの仕事にプライドを持ちつつも常に謙虚さを失うことなく、どんな人からも学ぼうという姿勢を保っているものです。そこには確実に「感情の理論」が働いています。その姿勢が末端にまで浸透し、市場に伝わっているのでしょう。話の途中で退席する経営者の後姿に「衰退」の文字を感じてしまいました。総じて大手塾が好調の中で、中小塾が苦戦している1つの理由がこんなところにもあると思ったものです。

問題は「感情の理論」を如何に「形」に表すかということです。例えば、ほとんどの大手塾は講師が教室の外に出て「お迎え・お見送り」を実行しています。そのことによって「子供たちの安全」や「コミュニケーションの重視」の姿勢を表しています。同様に「学校には真似のできない最高の学習環境を提供します」と主張するならば、優秀な講師や優れた教材を提供することはもちろん、例えば長時間座っていても疲れない「椅子」や使い易い広めの「机」を用意することも必要でしょう。45分~50分で区切る学校とは違い、塾の場合は90分以上座りっぱなしということもあります。特に、自習室はテスト前に子供たちが長時間滞在することが予想されるため、「教室」とは違ったコンセプトで作るべきでしょう。また、学校にはない「コミュニケーション・ルーム」の併設も面白いかもしれません。

「感情の理論」と言うと、ややもすると精神的なこと(例えば「相手を思いやる気持ちで接しましょう」とか「生徒に対する声がけを積極的に」等々)、いわゆるスローガンで終わってしまいがちになります。これでは塾として何の前進も図れませんし、その姿勢(スローガン)そのものが市場に伝わることはありません。目に見える「形」が必要なのです。(上記の例で言えば「相手を思いやる気持ち」を表すために、入口の段差をスロープに替えて小さな事故を未然に防ぐとか、校舎を車椅子の子でも通塾できる構造にする。「生徒に対する声がけを積極的に」するために、講師が気付いたことを書いてそっと手渡せるメッセージカードを用意する等々。)

リッツ・カールトンの「クレド」は有名で、真似をする企業は後を断ちません。しかし、リッツほど上手くいっている企業はごくわずかです。理由は、クレドを採用した企業のほとんどが「朝礼でクレドを唱和する」だけで終わり、それを実現するための具体的な実行に移せないからです。つまり「形」にできないのです。

「形に表す」ということは、大掛かりなことではなく日常の小さな実践の積み重ねです。掲示物ひとつ、発行物ひとつについて「塾のスローガン(理念)」の視点で見直すことです。そうした小さな積み重ねが全体として塾のイメージを作り、魅力的な塾を作り上げることにつながります。「感情の理論」とは目に見えてこそ有効に機能するのです。

神は細部に宿る。この言葉の意味をもう一度認識して、塾の細部を見直してください。あなたの塾は「あなたの思い」を「形」に表していますか?

 
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