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新時代のマーケティング論(10)
ファーストインプレッションを疎かにしない

森智勝氏

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世の中の商品は消費者のニーズ(必要)とウォンツ(欲求)によって存在している。

例えば、映画やレストラン、テーマパークなどの娯楽は(一部の関係者を除いて)ウォンツによって成り立っている。我々は美味しい料理を求めてレストランへ通う。その場合、我々の目的は「料理」そのものにある。先月号で取り上げた牛丼狂想曲は、まさに「最後の牛丼」を求めた結果生じた現象である。

一方、ニーズによって成立する商品の代表は病院や弁護士であろうか。この場合、特徴的なのは「消費者は基本的に商品を求めていない」ことである。誰もが「行かないで済むなら病院は行きたくない」と考えている。生涯、弁護士の世話にならないで済むならその方がよいと考えている。

では塾は…と考えた場合、後者のグループに属しているのは明らかである。生徒本人はもちろん、保護者も「塾に行かせないで済むなら行かせないほうがよい」と考えているのである。つまり、消費者は塾を求めていないのだ。では何を求めているのか。実は、彼らは子供の学習問題についての解決策を求めている。例えば「学習不安」「進学」等、子供たちは様々な悩みを抱えている。それを解決するための手段を探しているのだ。

そうした場合、本来は「商品の性能」そのものが重要視されるべきものだが、皮肉なことに購買決定の鍵は別のところに潜んでいることが多い。

例えば、あなたは目の前の医者の力量を正確に把握しているだろうか。歯医者の選択を近所の漠然とした評判…「やさしい」「面倒見がよい」…に任せていないだろうか。カリスマコンサルタントの神田昌典氏は「休日にわざわざ様子伺いの電話をくれた歯医者を10年近く名医だと信じていた」と著書の中で告白している。つまり、商品を取り巻く周辺環境に人は左右されるのだ。

1月の塾生獲得実践会セミナーにゲスト参加していただいた全国学習塾情報センターの片倉氏が、参加塾に対してファーストインプレッション(第一印象)の重要性について力説していた。多くの塾を訪問した経験に裏打ちされた貴重な提言であった。私も仕事柄、多くの塾を訪問し、また、多くの塾長と電話で話をする。その塾の業績が好調か不調かは瞬間に分かる。電話に出た相手の第一声で「その塾の好不調」が判断できる。暗い、ぼそぼそとした声の塾はアウト。受話器の向こうからマイナスのエネルギーが噴き出してくる。すると、人は本能的に早く電話を切りたくなる。

あなたが病院に電話を掛けるのをためらう様に、母親は塾に電話を掛けることに勇気を必要とする。そうして高いハードルを越えて電話を掛けた母親は、第一印象で無意識のうちに塾の良し悪しを判断しているのだ。この母親とのファーストコンタクトを疎かにしていると、サービス業たる塾は成り立たない。

私自身、塾の電話対応では個人的に非常に腹立たしい経験がある。

6年前、息子が中3の夏休み前のこと。この息子、頭の出来は悪くないが事情があって成績(通知表)は悪かった。塾にも通っていなかったが、夏休みくらい近所の塾の夏期講習でも受けさせようと開講したばかりの某大手塾へ電話を掛けた。

リーンリーン、ガチャ
塾  「はい、○○です。」と事務の女の子。
私  「息子をそちらの夏期講習に参加させたいのですが」
塾  「ではお名前、ご住所、電話番号をお教え下さい。」
私  「名前は森俊也、住所は…電話は…」
塾  「学校の成績はどれくらいですか?」
私  「(正直に)9科で20程度です。」
塾  「あの~、その成績では受講基準に達していないのですが…」
私  「ということは参加できないということですか?」
塾  「はい…」
私  「では結構です。」
ガチャ!

受講基準があって参加できないかもしれないのであれば、名前や住所等の個人情報を尋ねる前に告知すべきである。全てを晒(さら)した後で「お前の子供はアホだから受け付けない」(まあ、親にとってはそう聞こえる)と言われたら、どんな親でも怒る。事務の女の子は指示通りの対応だったのだろうが、これはマニュアル自体が間違っている。以後、近所の方に塾に関する相談を何度か受けたが、某塾を勧めたことは無い。こうした事例は全国で日常的に起こっている。聞けば誰もが知っている大手塾でもこうである。塾業界は他業種に比べて「顧客(見込み客)配慮に欠けている」というのは、塾に関わる業者の共通意見である。

少なくとも、サービス業の中ではダントツで劣っているのは確かだろう。

塾は商品(授業)が命である。それは間違いない。しかし、料理は食べてみないと味が分からないように、授業の良さは受けてみないと分からない。多くの塾がその前段階、見込み客を作るという所謂(いわゆる)マーケティングの時点で失敗をしている。そして、ほとんどの場合その失敗に気付いていない。

あなたの塾は大丈夫だろうか。塾生30人の塾も300人の塾も、コミュニケーションの基本は常にマンツーマンである。これからゴールデンウィークまで、まだまだ多くの電話問い合わせ、塾訪問者があることだろう。その時の対応、特に第一印象の重要さを知ってほしい。

コツは電話での第一声「はい、○○塾です。」に命を吹き込むことだ。例えはよろしくないかもしれないが、消費者金融のテレビコマーシャルを参考にしてほしい。「使わないで済むなら使わない方がよい」業種だからこそ、例外なくさわやかな対応を強調したCMを流している。受付役の女優が人気者になる現象さえ生んでいる。

今は売り手市場ではない、買い手市場だ。消費者の心移りは素早いと覚悟せねばならない。

 
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