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塾・新時代のマーケティング論(9)
「消えゆく牛丼が教えてくれたもの」

森智勝氏

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牛丼が街から消えた。テレビや新聞では「Xデー」の取材に忙しい。最終日には店先に長蛇の列が出来たそうである。当日の夕刊は次のように伝えている。
米国内でのBSE(狂牛病)騒動で、11日に「牛丼、最後の日」を迎える吉野家。昨9日に「Xデー」が公表されると、各店は「今しか食えない!」との駆け込み客が殺到。普段の平和な日々とは打って変わって、異様な雰囲気に包まれていた。
吉野家は11日から全国986店中、976店舗で牛丼の販売を順次休止する。9日午後9時すぎ、吉野家中野北口店(東京都中野区)では、約10メートル先に激安牛丼店「牛丼太郎」が、約100メートル先には「松屋」がある牛丼激戦区にもかかわらず、カウンター約30席はほぼ満席状態だ。
席が空くのを数分待って、ようやく席に着いた瞬間、20代男性店員が「ご注文はっ?」と秒速の攻め。普段はメニューを考える余裕が与えられるが、殺到する“食べ納め”目当ての客に、ちょっとの時間も惜しんでいるようだった。
すかさず「大盛、つゆだく」と注文したものの、「大盛」「並、タマゴ」と飛び交う注文の嵐から、出てきた「大盛」は「つゆだく」ではなくガッカリ…。
フリーター風の30代男性2人組は「やっぱり牛丼チェーンの中では吉野家が一番うまい」などと談笑しながら大盛を1人2杯も平らげた。
別の席には普段の吉野家では、“天然記念物”級に稀少なタンピンのギャルが牛丼を注文。ケータイカメラでパチリとやるなど、去りゆく牛丼を惜しむ姿が店内のあちこちで見受けられた。
この記事から学ぶべきことは多い。まず、希少性の意味を考えてほしい。これまで牛丼がなくなるということを想像していた人は皆無だろう。だから「牛丼を食べる」特別の理由はない。ところが、牛丼が消えると知った瞬間に「牛丼を食べる」特別の理由が生まれる。一年前と同じはずフ牛丼に人は殺到する。「希少性」は人を行動に駆り立てる大きな条件である。



塾も全く同じである。いつでも入れる塾には「いつも入らない」ものである。人は「人の集まるところに集まる」という性質を持っている。この「希少性」をいかに演出するかが塾生数に大きく関わってくる。

希少性を考える場合、2つの要素に分けて考える必要がある。

一つは商品としての希少価値である。「そこに行かないと手に入らないもの」をいかに作り出すか。「ジブリの森美術館」では数万円のセル画が飛ぶように売れている。また、ゴルフ場のフェニックス倶楽部ではオフィシャルロゴの入ったジャンパーを15,000円で売っている。(ロゴがなければ3,980円程度のものだろう。)塾にとっても、このオリジナリティーは必要だ。どの塾でも手に入る指導法、教材、学習システム等の形式知では希少性は作れない。いわゆる暗黙知を高める工夫がいる。それは、他塾の経営者に「とてもウチでは真似が出来ない」と思わせるものでなければならない。作家の連城三紀彦氏は実家が塾である。無名の頃は教壇にも立っていた。氏が直木賞を受賞したとたん、その塾には生徒が殺到した。これもオリジナリティー効果のひとつである。

もう一つが言うまでもなく「数的」な希少性である。定員を持たない塾に魅力を感じる保護者は少ない。通塾率の低下から「中3生は多いのだが他学年生の確保ができない」という塾が増えている。逆三角形どころか文鎮(ぶんちん)型の塾生構造になっている塾も少なくない。こうした塾は毎年、塾生獲得の心配をしなければならない。

ところが、各学年まんべんなく塾生を確保している塾もある。そうした塾に共通しているのは定員制の厳格な維持である。そして、春期チラシには「新中3生は満席のため募集していません」と書いてある。入塾を断ることで希少性を市場に伝えている。「あの塾は中3からは入れない」という評判が出来れば、当然、「中2のうちに、あるいは中1のうちに入ろう」という消費者行動が生じる。

上記の新聞記事で学ぶべき2つ目に「臨場感」の重要性がある。
すかさず「大盛、つゆだく」と注文したものの、「大盛」「並、タマゴ」と飛び交う注文の嵐から、出てきた「大盛」は「つゆだく」ではなくガッカリ…。
この文章は「消えゆく牛丼」という記事の趣旨からすると必要がない。ところが、この記述によって読者をごった返す店内に引きずりこむ効果を生んでいる。読者の視点は店外から店内へと移動する。すると、あたかも現場にいるような臨場感に陥る。

例えばチラシを作成する場合も、いかに紙上で塾の疑似体験をさせるかが重要な鍵になる。人は分からないものには近寄らない。塾関係者にとっては毎日現場にいるため当たり前になっていることが、読者には非日常だったりする。「こんなことは説明しなくても分かっているだろう」ことが案外知られていない。また、「詳しいことはお問い合わせ下さい」の一言で片付けてしまう塾も多い。残念だが、人は分からないから問い合わせるのではない。分かってはじめて確認の意味で問い合わせるのである。

あなたの塾はチラシでDMでコマーシャルで…この臨場感を伝えているだろうか。

牛丼が消えることは「牛丼ファン」の私にとって淋しい事件だ。しかし、その最後に大きな気付きを与えてくれた…合掌。

私塾界発行「速報」より

追伸 現在は牛丼も復活して喜ばしいことです。めでたし、めでたし…。

 
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