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塾・新時代のマーケティング論(4)
「戦略の重要性・ランチェスターの法則」

森智勝氏

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正直に告白すると、この原稿を書き始めるまで「大手であり続けるために必要な新時代のマーケティング論」を求められていることを知らなかった。マス・マーケティングに関して私は門外漢であり、その分野に関しては船井総研を始めとする、それこそ大手コンサルタント会社にお任せする。

ただ、マーケティングの基本は大手も中小も同じだと考えている。企業が粗利益で存続している以上、顧客を創造し続けること以外に存続の方法はない。なぜなら、ランチェスター経営の竹田氏が主張するように粗利益は客から料金を受け取った瞬間にのみ発生するからである。それは、車を売ろうがラーメンを売ろうが同じ理屈である。また、勉強熱心な経営者は私の拙い文章からも何がしかの「気付き」を得ようとされるだろうから、スタンスを変えずに筆を進めることにする。

さて、ランチェスター経営の話が出たので、今回はランチェスターの法則について書く。

ランチェスターの法則によると、真に強者と呼べる企業は全体の0.5パーセントにすぎず、そのほとんどは弱者であるという。具体的に強者の条件を挙げると、市場占有率が26パーセントを超える1位であり、2位との間に10対6以上の差をつけていなければならない。そして、強者は強者の、弱者は弱者の戦略を採用すべきであると主張する。

私は、その規模の大小に関わらず、全ての塾は弱者の戦略を研究するところから構想を練り上げるべきだと考えている。

ランチェスター経営の主幹理論はセグメント(絞り込み)によるマン・ツー・マン・マーケティングである。商品、対象顧客・営業エリア…全ての分野について会社の最大機能を発揮できるところまで絞込みをすることの大切さを教えている。ところが塾業界は、もともと顧客対象が若年層に絞られ、市場の範囲もほぼ国内に限定される特殊産業だ。一部のノウハウ以外、海外に市場を求めることは不可能である。対象となる顧客も中学生を中心に前後10年間程度に絞られ、常に流動する。食品とか電化製品とは顧客寿命が違う。当然、「100年守り続けた老舗の味」は存在し得ない。また、例えば上場している二十数社の塾は業界内では大手かもしれないが、トヨタと比べるまでもなく企業規模としては大手ではない。
ではランチェスター経営の何を学びとするか。私はマン・ツー・マン・コミュニケーション戦略を一番に挙げたい。日産はトヨタに次ぐ業界2位であり、その意味では強者ではない。にもかかわらず、トヨタと同じ経営戦略を採用してきたために業績が傾きルノーの資本注入という事態に至った。カルロス・ゴーン氏がやってきて猛烈なセグメントを敢行して建て直しを図っていることはご存知の通りである。マスコミでは大胆な人員整理や工場の閉鎖が大々的に取り上げられ、そこにばかり注目が集まっているが、それだけで財務体質は向上するかもしれないが肝心の売り上げ増にはつながらない。実は一方で地道なコミュニケーション戦略が向上している。

私事だが、女房殿の自動車を買い替えようと考え、先日の日曜日、いくつかのディーラーを娘も連れて親子3人で回った。名古屋という土地柄、当然トヨタが強く、私もエスティマを使用している。最初に向かったのはトヨタ系の販売店が2店、次いで日産系の販売店を訪れたのだが、その対応の違いに驚いた。

どこも若い社員が対応したのだが、名刺をくれたのは日産系の担当者だけだった。希望車を聞くと「それ、僕乗っています。」と言って社員用駐車場まで女房殿と娘を連れて行き、自分の車を使って熱心に説明をしてくれた。帰り際、道路まで出て車の安全誘導をしてくれたのも日産店だけだった。トヨタのエスティマで乗り付けたにも関わらず、私に対して「ハイブリッドですか。いい車ですよね。」と声を掛けてくれた。マニュアル的説明に終始したトヨタ店とは印象が断然違った。思いは女房殿と娘も同じだったらしい。帰りの車中は日産の「お兄さん」の話で盛り上がっていた。何より、どの店でもアンケートの記入を求められたのだが、女房殿が記入したのは日産店だけだった。唯一粗品をくれたのも日産店である。

その店、あるいはその担当者だけが特別だったのかもしれない。しかし、客は目前の担当者から会社全体のイメージを持つ。いかに巨大企業であろうとも、基本はマン・ツー・マンのコミュニケーションに行き着く。

複数の教室を持つ塾は、ややもするとトータルイメージを大切にするあまり個別のコミュニケーションが疎かになる。顧客中心主義を唱えながら、その実、自己の都合で客を扱ってしまう。業績が傾き始めるきっかけは些細なところにある。1割近くの顧客が流出し始めると雪崩現象が起こり、初めて問題が表面化するが手遅れであることが多い。

業界トップのトヨタが順調に業績を伸ばしている中で、日産が同様に業績を伸ばしているのは戦略を転換したからだ。つまり、強者の戦略から弱者の戦略へ。

こうした戦略を構築する場合、その役目は誰が担うべきか。言うまでもなく経営者自身である。「企業は人なり」と言われるが、その「人」とは経営者自身を指す。この「人」を従業員と考えている経営者がいる。そうした経営者は「従業員がもっと頑張ってくれれば…」と口癖のように言う。企業が倒産する内的原因は、突き詰めると放漫経営と組織崩壊である。無理な拡大計画の失敗や、講師の大量流失(この場合、塾生も大量に流失する)がそれである。その責任の全ては経営者に帰す。不況や社員の道徳欠如を嘆いても始まらない。どの塾でも社員教育、講師教育は熱心に行なっているだろうが、最も教育費をかけなければならないのは他ならぬ経営者自身である。

マーケティングはダイレクト・レスポンス・マーケティングだろうがランチェスターの法則だろうが、それはあくまでも理論ツール・知識だ。それを自塾の経営に落とし込む知恵に変換する作業、それこそが経営者の一番の仕事である。戦略とは見えざるものと言われるように戦略の失敗は表面化しにくい。反対に戦術の失敗は分かりやすい。結果、戦術を担う現場担当者が責任を問われることが多い。しかし、その原因の元は全て戦略の失敗つまり経営者にあることを忘れると、前述の組織崩壊を招くことになる。

あなたの塾は組織崩壊の原因となる火種を抱えていないだろうか。火種は常にあなた自身の中にある。

 
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