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塾・新時代のマーケティング論(2)
「マーケティング論」

森智勝氏

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1 マーケティングとは

時代はマーケティングブームである。火付け役は顧客獲得実践会を主催する神田昌典氏であろうか。彼の著書は全てがベストセラーになり、カリスマ・コンサルタントとしての地位を確立している。読者の中にも顧客獲得実践会の会員が少なからずいることだろう。神田氏が提唱するダイレクト・レスポンス・マーケティングはマーケティング・メソッドとしては古典に当たる。特筆すべきは氏が命名したエモーショナル・マーケティングとの融合によって、新しいマーケティング・メソッドを生み出したことである。その一点が彼をマーケット界の寵児とした。

ところでマーケティングとは何だろう。神田氏の答えは明確である。「見込み客を集める」ことである。見込み客を顧客にすることをセールスと呼び、マーケティングはその前段階を指すのである。その意味では塾業界にマーケティングは事実上存在しなかった。これまで、チラシに大きく「塾生募集」と謳い、直接客を求めることから始めて疑わなかったのである。(詳しくは私塾界8月号参照)

神田氏のエモーショナル・マーケティングが市場に流布されるに従い、神田メソッドのキャッチコピーが氾濫するようになる。「まだ○○は買うな」「まだ○○で損をしますか?」という表現である。塾の中にも同様の表現を使うところが出現してきたが、どうも上手くいっていないようである。なぜか。表面ばかりを真似して小手先で細工をしても、塾の理念や方針とかけ離れたキャッチコピーでは違和感が大きくなるだけで、いわゆる「胡散臭く」なるからである。エモーショナル・マーケティングの本質を学ばずに利用しても上手くいかないのは当然である。

2 エモーショナル・マーケティングの塾バージョン

エモーショナル・マーケティングとは一言で言って、消費者(読者)の感情の動きを考えて言葉・行動を選ぶことである。
例えば塾が「塾生募集」と言うのは、当たり前だから読者の感情は動かない。感情が動かないから行動に出ない。しごく当たり前のことである。見出しは読者の感情のバランスを崩す表現にしなければならない。
かつて、「間違いだらけの○○選び」という表現の本が流行した。今なら、さしずめ「買ってはいけない」シリーズだろうか。こうした見出しを見たとき、人は感情が動く。「なぜ?」。当然、その答えを知りたいがために購入するという行動に出る。これがエモーショナル・マーケティングの典型である。塾ならば「間違いだらけの塾選び」「まだ塾は決めてはいけない」だろうか。(繰り返すが、こうした表現を安易に使うと失敗する。)

これまで塾が発信する情報は一方的なものが多かった。チラシ・DMはもちろん、塾内の案内、お知らせにいたるまで。そこには、「それを読んだ生徒・保護者がどう感じるか」という視点が欠けている。そこを常に考えて情報を発信しようというのがエモーショナル・マーケティングである。
例えば、「りんご100円」と「青森の山田さんご夫妻が1年間丹精込めて育てた美味しいりんご、100円です」を比較すれば分かりやすい。どちらも商品と値段は同じである。しかし、どちらが売れるかは言うまでもない。同様に「夏期講習 全100時間 30,000円」と書くよりも、「夏期特訓講座 最後の夏、100時間にも及ぶ特訓講座で君の実力を2ランクアップさせる。昨年度までの実績、平均偏差値4.2アップ。30,000円。座席数に限りがあります。限定20名のみ募集。」と書いた方が反応率は確実に高くなる。
要は、読者(ほとんどの場合、保護者)が何を言ってほしいかを考えて表現することである。保護者は「塾が何をするか」には興味がない。「それによって自分の子供がどうなるか」に興味がある。いくら指導システムの素晴らしさを訴えても反応が鈍いのは、塾側の一人相撲になっているからである。端的な例を挙げると、テレビ通販に学ぶと良い。腹筋を鍛える器具が商品の場合、必ず筋骨隆々の男性が実演してみせる。「これを使えばあなたもこうなる」と見せているのである。これまで塾が発信する情報というのは、ほとんどが塾の良さ、素晴らしさを強調するものが多かった。縮小均衡に入った買い手市場では、そうした場合、消費者は辟易していることが多い。
コツは、「当塾は」という表現をやめ、「あなたは」という主語を多く使うことである。そうすると、自然とエモーショナルな文章が書けるようになる。

もともと、マーケティング技術は大恐慌時代のアメリカで発達したという。物が売れない時代に、「どうすれば自分の商品を買ってもらえるか」と苦心した先人たちの知恵である。考えてみると、ここ10年以上続く日本の不況は当時のアメリカに似ている。時代は変わっても人の感情メカニズムに大きな違いはない。商品力が同じなら、(つまり1個100円のリンゴなら)表現を工夫した方が勝つに決まっている。あなたの塾はその商品力(授業、講師等)に過信して「売り方」に手を抜いていないだろうか。教務力とマーケティング力は車の両輪である。どちらが欠けても現在の塾業界を生き抜いていくのは難しい。
スタッフがチラシを作った場合、必ずチェックをすることだ。方法は保護者の気持ちになって20秒だけ眺める。そのとき、続きを読みたくなったら良いチラシである。そうでない場合、再考することをお勧めする。読者は役に立たないチラシに20秒以上付き合うほど暇ではない。DMも同様である。封を開けてから20秒が勝負である。20秒で目にすることができるところに「エモーショナル」な言葉を置く。(DMの場合、ほとんどの人が冒頭→文末→付属物の順に見るので注意。決して順序よくは見ない。)
エモーショナル・マーケティングを疎かにしてはいけない。「幸運を呼ぶ幸せの黄色い財布29,800円」は、ほとんどそれだけで売り上げを作っている。

 
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