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中小塾のためのマーケティング講座(14)
「コミュニケーション戦略の本質」

森智勝氏

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コミュニケーションの意味

塾業界の今年、いや今年だけでなく、これから少なくとも5年間のキーワードはコミュニケーションです。なぜなら、買い手市場ではチラシやDMの反応率は年々低下するのが当たり前だからです。どんなに立派なチラシを作成しても、どんなにお得なオファーを提示しても時代の流れには逆らえません。
塾業界は1996年から買い手市場に転換しました。供給過剰状態になっています。消費者(保護者)は有り余る商品(塾)の中から自分の子供に相応しい1つを選択することになります。また、長引く不況の影響で、意味のない(無駄な)出費を極力避ける傾向にあります。結局、チラシ・DMのような「ソフトコンタクト」による購買決定(衝動買い?)を期待することは難しくなっているのです。そこで、大手塾も中小塾もコミュニケーション能力を向上させて口コミ・紹介の数を増やすことに力を入れています。
ところが、その仕組みが上手く機能している塾は少ないようです。なぜでしょうか?
それはコミュニケーションの本当の意味を理解していないことが原因です。そのため、ただ形ばかりの対応に終始し、目に見える結果を挙げることが出来ないでいるのです。
あなたはコミュニケーションの意味を尋ねられたら何と答えますか?多くの塾長さんは次のように答えます。
1 お互いの気持ちを理解しあうこと。
2 情報を伝達すること。
3 文字、身振りを通して行われる意志の伝達。
4 話し合うこと。
国語の問題でしたらどれも正解なのでしょうが、私たちはテスト問題を解いているのではなくビジネスをしているのです。ビジネスとしてのコミュニケーションの意味は次のように理解しなければなりません。
コミュニケーションとは相手に思いを伝え、(自分の望むように)行動してもらうこと。
どんな情報発信も、それに対する望ましいリアクションを想定したものでなければ意味がありません。そして、そのリアクションは数値で測れ、検証可能であることも大切なことです。
様々なコミュニケーション案も「目標」→「戦略」→「戦術」→「結果」→「検証」という流れに沿って計画しなければ、単なる「情報の垂れ流し」で終わってしまいます。

例えば、チラシの目的は問い合わせの電話を掛けてもらうことです。すると目標は「問い合わせの電話○○件」ということになります。その目標に合わせてチラシ作成の「戦略」を練るという作業が必要です。次に、掛かってきた電話対応の目的は「来塾」を促すことです。「電話を掛けてきた人の○○%を来塾させる」という目標を立てることになります。当然、そのための電話対応マニュアルが不可欠です。では来塾者との面談の目的は…このように経営要素の1つ1つについて「目標」→「戦略」→「戦術」→「結果」→「検証」という流れに沿って構築する思考を持つべきなのです。「仕組みを作る」とはそういうことです。全体像という大枠から考えると思考停止が起こり、結局、机上の空論に終わってしまいます。多分、あなたの机の上にも忘れ去られた「経営計画書」の1つや2つは埃をかぶっているのではないでしょうか。一度、ミクロの視点で実行可能なところから積み上げてみてください。人は「行動することで意欲を生じる性質」を持っています。まず、行動することです。

ワン・ツー・ワン・コミュニケーションに徹する

次に気を付けなければならないことは、コミュニケーションとは常にワン・ツー・ワンでなければならないということです。塾側は塾生全員に情報を発信していても、受けては常に「一人」です。そこを意識せずにいると、どうしても1対多数の構図でコミュニケーションを図ろうとしてしまいます。具体的に言うと、あなたが発行する案内文に「みなさん」「あなた方は」という複数代名詞を無意識のうちに使っていないでしょうか。それでは読み手は自分のこととして捉えることができません。出来る限り「あなたは」「君は」という単数代名詞を使うべきなのです。
朝礼で生活担当の教師から「皆さん、廊下は走らないようにしましょう。」と言われて、自分のこととして捉えている生徒がいったい何人いるでしょうか。ほとんどの生徒が他人事のように聞いているはずです。
塾生が30人でも300人でも、コミュニケーションは1対1の関係で成立します。そこを忘れてしまうと、「あなたの思いが届かない」結果になってしまいます。コツは、文章を作るときに具体的な塾生一人を思い浮かべ、その子に語りかけるように書くことです。

思いを伝える物語

思いを伝えるための簡単な方法があります。「物語」にして伝えるのです。「こんなに熱心に指導しています。」と熱弁するよりも、ある生徒と格闘しながら志望校合格を果たした過程を「物語」として伝えるのです。あるいは、開講時の苦労話を伝えるのも効果的です。「思いを伝える」とは「共感してもらうこと」であり、あなたがドラマの主人公に感情移入するように、人には物語として伝えた方が「共感」してもらえるのです。次の文章はある塾の紹介に使ったものです。「物語」の効果を実感してください。

当塾の場合も、開講当初から今日まで様々な試行錯誤を繰り返してきました。ご挨拶代わりに、開講時の物語の一部を公開したいと思います。では…。

もう十五年以上も前のことだ。十二月の寒い朝、いつもより2時間も早く起きて夜が明けきらぬ街中を西中へ向かつた。校門から少し離れたところで回りに人がいないことを確認して車から降りた。足元には前夜に降った雪が氷になって、うっすらと一面を覆っていた。
校門の十メートル手前に立って生徒が来るのを待った。手袋とマフラーをしていたが、冷たい風が頬に当たると切られるように痛い。自然と涙目になる。
三十分以上たっただろうか。溶け始めた雪がシューズの中にまでしみてきた頃、やっと一人の生徒が登校してきた。チラシを一枚渡そうとするが、手袋をしていたのでうまくいかない。慌ててはずしたが一瞬遅く、生徒は学校の中へ。記念すべき初登校者に塾の開講チラシを渡し損ねてしまった。気を取り直して待つこと十分。二人日の生徒が来た。「よし、今度こそ。」何とかチラシを手渡すことに成功した。続けて三十枚くらい配ることができた。そのうち、登校する生徒の数が急に増えだし、必死になって配るが半分以上の生徒には渡すことができない。
夢中になって配っていると、「おい、君。」後ろの方から声がした。「君、困るんだよね~。こんなところでゴミを撒いてくれちゃあ。」西中の教員らしい。鼻の下に無精ひげを生やして少し怖い。「これ、ゴミじゃなくて塾のチラシなんですが…。」まごまごしながら言うと、「あれを見んか~。」鼻ひげ先生は脅すような口調で校内を指した。
そのときの光景は今でもはっきりと覚えている。そこには数え切れないチラシが散乱していた。一生懸命に拾った。雪にぬれて破れたチラシ、くちゃくちゃに丸められたチラシ、足跡の付いたチラシ。冷たさで指先の感覚が無くなっていた。手のひらに何度も息を吹きかけたが、それでも指は思うように動かなかった。気が付くと辺りには誰一人いなくなっていた。
自然と涙がこぼれ落ちた。
これが当塾の原点です。西中は今でも愛すべき我が母校です。物語の続きは教室でお話しましょう。

どうだろう。あなたも創業時の苦労を思い出したのではないだろうか。「思いを伝えることは共感してもらうこと。」そして、相手に思いが伝わらなければ行動に移ってもらえるはずがないのである。

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